「申し訳ないです、忙しいところをお呼びだてして」
座ったままながらも背筋を伸ばした母様が頭を下げる。
溜め息を吐いた少彦名様はミヅハにしゃがむように告げ、肩から軽やかに飛んで座卓の上に降りた。
「忙しいとわかってるなら呼ばないでほしいところだけど、君らはむやみやたらと僕に頼ったりしないから、それなりのことが起こったんだろう?」
「その通りです。ミヅハ、いつきに触ってみてくれるかい」
紙袋からプリンの入った瓶を取り出していたミヅハは、少し残念そうな顔を見せてから手を止め、私の前に立つ。
躊躇いなく手を伸ばそうとしてきたので、思わず私の方が身を引いてしまった。
「ミヅハ、痛いんだよね?」
「……気にしなくていい。少彦名殿に診てもらうのに必要なことだ」
「でも……」
せっかく赤みがひいたというのに、また痛い思いをさせるのかと思うと胸が痛い。
まごついている私に、温かいお茶をぐいっとあおった天照様が「心配しないでいいわよぉ」と唇を弓なりにして微笑んだ。
「ミヅハは男の子だから頑張れるわよ。ほれ!」
天照様が突如バカ力でミヅハのお尻をバシンと叩いた勢いに負け、バランスを崩したミヅハが体ごと私に突っ込んでくる。
「あわわわっ、ミヅハ!」
私は慌てて反射的にミヅハを支えようと両手を広げたけれど、彼の体を受け止める寸前。
バチバチバチバチ!っと、細かな稲妻が私たちの間に走ってミヅハを弾き飛ばした。
「ミヅハ!」
よろめきながらも畳に膝をついたミヅハは一瞬うずくまる。
駆け寄りたくともできずにオロオロと立ち往生している私の横で、天照様は「あらぁ、これは予想以上ね」と顔つきを厳しくして腕を組んだ。