空き缶をビニール袋に入れ終わり、持ち手の部分をくるりと結んでいたらノックの音が聞こえ、次いでミヅハの声がする。
「瀬織津姫、ミヅハだ。少彦名殿もいる」
「入っておいで!」
腹から声を出して答えた母様の許しに、戸が開く音が聞こえた。
私は袋を部屋の隅に置くと、ふたりを迎えに踏み込みへと立つ。
部屋に入るミヅハを見れば、予想通り手にはプリンの袋を下げていて、頭の天辺には手のひら大ほどの大きさの少彦名様が胡坐をかいて座っている。
背には自分の背丈ほどあるひょうたんを背負っており、中には治療用の酒が入っているらしい。
「少彦名様、こんばんは」
私が挨拶をすると、少彦名様は首を傾ける。
「やあ、こんばんは。いつきの姫君。瀬織津姫と天照も。面倒なことこのうえないけど、呼ばれたので参上したよ」
鎖骨辺りまで伸ばした、松の葉にも似た深緑色の髪が柔らかく揺れる。
この少々面倒くさがりな性格の少彦名様は、世界が生まれた天地開闢の後、高天原に最初に現れた三柱の神の一柱、高御産巣日神様の手のひらから生まれた神様だ。
母様が挨拶のために立ち上がろうとすると、少彦名様は手を突き出して「そのままで」と制した。