お土産をミヅハに手渡せたのは、彼の中抜け休憩が終わる頃だ。
 離れ座敷のミヅハの部屋をノックし、扉を開けたミヅハは「二時間くらいは寝れた」と、少しスッキリとした顔を見せた。
 そして、お土産がプリンであると知るや否や、瞳を輝かせて頬を緩める。

「仕事が終わったら食べさせてもらう」

 自室のミニ冷蔵庫にプリンをしまう彼は、今にも鼻歌を歌いそうなくらいに機嫌がいい。
 しかし、仕事が終わったら母様の部屋に集合なのではなかったか。
 食べる時間があればいいのだが、宿ではスイーツ王子と名高いミヅハのことだ。
 時間がなければプリンを持参して母様の部屋に訪れるだろう。
 そんな予想をしつつ、必要なら仕事を代わるから遠慮なく言ってねと伝えた私は、ミヅハに軽く手を振って自分の部屋へと戻った。

 そうして、疲労が残っていたのか、いつの間にか座卓に伏せて眠ってしまっていた私は、目を覚ますなり、室内が暗いことに慌てて時計を確認する。

「やばっ……」

 時刻はまだ二十一時半になる前。
 もう宿の仕事が終わる時間で、母様との約束の時間が直前に迫っていた。
 うたた寝どころか普通に爆睡していたらしい。
 あまり体勢も変えていなかったようで背中が凝って痛い。
 しかし、それをゆっくりと伸ばす時間もなく、私は立ち上がると慌てて鏡の前に立った。
 寝起きの顔は少しむくんでいる気がするが方ない。
 せめてと急ぎ髪型を整えてから、扉を開けて飛び出した。

 パタパタと小走りで母様の部屋に向かい扉をノックすると、迎えてくれたのは母様ではなく。

「おっかえりなさーい、いつきちゃん」
「天照様!」

 缶ビール片手に笑顔で私の手を引く天照様は、「瀬織津、愛娘が来たわよー」と上機嫌な声で座卓の上を片付ける母様に知らせた。