「はぁ~、いっぱい話せて楽しかった。昨日は読みたかった本を読破できたし、今日はいっちゃんのおめでたい話も聞けたし満たされたわ~」

 支払いを済ませカフェを出ると、店の前でさくちゃんが微笑む。

「読みたかった本?」
「うん。神宮文庫に保管されている蔵書のひとつなのだけれど、歴代の天皇様の私物や逸話が掲載されている本なの」

 神宮文庫とは、伊勢神宮の経営する図書館だ。
 起源は奈良時代にさかのぼり、現在は主に神宮や神道関係のものが多く、他には国史等の貴重な書物も収蔵しているとか。
 一般にも公開しているけれど、貸し出しはしておらず、館内での閲覧のみ可能となっている。

 さくちゃんは伊勢の歴史や文化などに昔から興味があるらしく、神宮文庫にもちょくちょく通っているのだ。

「へぇ~。歴代の天皇様の。何か面白い逸話はあった?」
「そうねぇ、面白いというか、少し切なくて恐ろしげだったから印象に残っているものはあったわ」
「どんなの?」
「ずっと昔の天皇様がね、愛した女性を繋ぎ止めるために狂って殺してしまうのだけど、魂を自分の元に留める為に使った呪具が今でも現存していて、伊勢にあるって逸話よ」

 何気なく聞いたものの、予想以上の逸話が披露されてちょっと引いてしまう。