甘いものに目がない彼には、それがブランカのシェル・レーヌであるとわかったのだろう。
 あこや貝の形が特徴のシェル・レーヌは、中はふわふわ、外はサクっとした食感で、口に含むとバターの香りが広がり上品な味だ。
 肉厚で食べ応えもあり、以前ミヅハがドハマりしていたのを知っている。

「ミヅハが喜ぶかなと思って買ってきたんだけど、別に、なんて冷たく言わ」
「こし餡とつぶ餡、どちらのおはぎから食べるか悩んでいた」

 私の声に被せ、若干早口に明かしたミヅハの瞳は真剣だ。

「まさかの甘味」

 ミヅハが筋金入りの甘いもの好きなのは、私が四歳の時、彼と出会った頃からなので理解してはいる。
 私がポシェットから取り出すお菓子を、まだ十歳前後くらいの姿だったミヅハが喜んで食べてくれていたのはいい思い出だ。
 しかし、どこか愁いを帯びた表情で空を見上げながら考えていた内容としては予想外すぎて、思わず突っ込みを入れてしまった。
 豆ちゃんも小さな声で「えぇ~」と、そんなことかと言わんばかりの声を漏らしている。

 そもそも、ミヅハが何を悩んでいるのかを無理に聞き出したかったわけではなく、態度について言及したつもりだった。
 だが、それだけ必死だったのだろうと苦笑する私に、ミヅハがマドレーヌを早く寄こせと催促するように手を伸ばし……たのだが、彼は何故か引っ込めてしまう。

「ミヅハ?」

 どうしたのだろうかと疑問に思った刹那、ミヅハの口がゆっくりと開いた。

「……本当は、もうひとつ考えていた」
「もうひとつ?」

 もしや、きなこのおはぎも食べたいなどと言い出すのではないか。
 そうであれば、きなこ派の私としてはきなこを激推しするところだが、再び空に視線を移したミヅハが吐露したのは、おはぎの種類ではなく。

「あの日も、雨だったな、と……」

 過ぎ去りし、いつかの話だ。

 今日という日に思い当たる【あの日】といえば。

「十四年前の、今日?」

 ミヅハが思い返す雨の日について訊ねると、彼は「ああ」とひとつ頷いた。