未来の別れを今から悲しんでいてはもったいない。
それに、まだ結婚してもいないのだから、今はこの時間を大切にすべきだ。
頼んだロールケーキをフォークで小さく切って頬張ると、クリームに練り込まれた白餡の仕事っぷりに自然と頬が緩まった。
米粉入りのふんわりとした生地も舌触りが良く、幸せな心地にしてくれる。
さくちゃんもチーズケーキをひと口味わって「美味しい」と笑みを零した。
「それにしても急なのねぇ」
「そうなの。いきなり母様に結婚しろって言われて。ミヅハは理由があるはずだからって納得してるっぽいけど、私にはその理由がわからないからスッキリしなくて」
「なるほど、何か理由があるのね。でも、それはさておき、いっちゃんはミヅハさんと結婚できるのは嬉しくないの?」
「えっ!?」
驚いて思わず声が大きくなってしまい、近くのお客さんの視線が刺さる。
すみませんと肩を小さくして頭を下げると、さくちゃんは可愛らしくも悪戯っ子のように微笑んだ。
「初恋の相手だったわけでしょう? 今はもう好きじゃないの?」
「つ、突っ込んでくるね、さくちゃん」
「だって大事なことでしょう?」
確かに、結婚するならば、そこに恋愛感情があるかというのは大事な部分だろう。