ミヅハなら嫌じゃない。
この数日で、確かに私はそう思うようになった。
「素敵ね~。いっちゃん、神嫁様になるのね」
コーヒーの香りが漂う中、両手を合わせて小さく拍手しながら微笑むさくちゃんに、私は小さく笑ってしまう。
「さすがさくちゃん。相手がミヅハなのに驚かないのね」
「まあ、神様たちと暮らしてるいっちゃんならあり得るかなあ~って思えるし、ほら、古事記や日本神話では神と人との神婚話はたくさんあるでしょう?」
「そういえばそうかも」
羽衣伝説に浦島伝説と、神と婚姻を結んだ人の話は少なくない。
また、神が相手だけではなく、精霊やあやかしとの異類婚姻譚もあるくらいだ。
霊感があるうえ、伊勢神宮の舞女であるさくちゃんなら、想像もしやすく理解できる話なのだろう。
「私、さくちゃんに出会えてよかった」
「やだ。いきなりなぁに? もしかして、神様に嫁いだら会えなくなってしまうの?」
「それはないと思う。ミヅハからは、人の身を持ったまま人の理から外れる……みたいなことを言われたし」
「人の理?」
「寿命がとてもとても長くなるんだって」
さくちゃんを前に言葉にして、胸の内が少しだけ締め付けられる。
ミヅハと結婚したら、私はとても長い時間を生きていくことになり、老いていくさくちゃんと老いない自分との差を寂しく思う日がくるだろう。
私は、自分の身に何も起きない限り、間違いなくさくちゃんを見送る側になるのだ。
皺だらけになった彼女の手をとって、涙を流す日が、いつか必ずやってくる。
だけど、さくちゃんはフフッと笑った。
「そうなのね。じゃあ、私長生きしなくちゃね」
おっとりとしたマイペースさに救われて、私も「お願いね」と笑顔を見せる。