「えっ、いっちゃん結婚するの?」

 その報告ができたのは、早めのランチを済ませ、ゆっくりしようと五十鈴川を間近に望める五十鈴川カフェのカウンター席に着いて間もなくだ。

 気のぬくもりに溢れる空間で、コーヒー飲もうとカップに両手を添えたさくちゃんは、驚きに双眸を丸くした。

「そう、みたい」

 母様には考えさせてと言ったけれど、婚姻を結ぶことは覆らないだろう。
 遅くとも来月中、私が二十歳の誕生日を迎える前に結婚することになるのだが、まだ実感は湧かない。
 それ故に、曖昧に答えてはにかんでしまった。

「わぁ、おめでとう! 相手は誰?」

 コーヒーに口をつけるのを止め、興味津々といった様子でこちらへと体を向けるさくちゃん。
 彼女を捉える視界の隅には、窓の向こうで穏やかに流れる五十鈴川。
 本人に聞かれているわけではないけれど、妙に意識してしまい、落ち着かない気持ちで口を開く。

「それが……ミヅハなの」
「ミヅハさんって、五十鈴川の水神様よね? いっちゃんの初恋の人で、いつからかいっちゃんにそっけなくなって、たまーにおはらい町に現れては、女性たちの瞳を釘付けにするイケメンの神様」
「そ、そう。そのミヅハ」

 さくちゃんの持つ情報をアップデートするならば、婚姻の話が出てからは、甘さが加わって振り回されているのだけど。
 でも、だからこそ、最初に告げられた時よりも結婚に対して拒否感は薄くなっているのが現状だ。