「これ……あの夢の……」

 そう。カンちゃんのお皿の傷は、夢で見たものとまったく同じ場所にあり、ヒビの入り方もよく似ているのだ。

「夢は現実と繋がっている?」

 視線を彷徨わせ言葉にして、昨夜予想していたことを思い出した。
 “私”と”彼”が出る夢を見るのには理由があるのでは考えていたけれど、もしも現実と繋がっているのなら。

「過去のできごとを、”私”という誰かの目を通して視ている……?」

 確かめるような疑問の声に、当然ながら答えは返ってこない。
 ただわかるのは、眩暈を起こした日から、私には様々な変化がみられているということだ。

 不思議な夢と、突然の婚姻話と、ミヅハが私に触れられなくなったという三点。

 婚姻については母様が明かしてくれないだけだし、ミヅハが触れられなくなったのも少彦名様なら原因がわかるだろうからきっと対処できる。
 そして、夢については、カンちゃんと大角さんが微妙な態度をとっていた覚えがあり、今思えば、なぜそれを知っているのかという反応だったようにも思える。

 すぐそこに答えはあるのに、教えてはもらえない。
 その理由はなんなのか。

『大丈夫。いつか、いつきにも全部わかる時がくる。きっとね』

 あれから数日、母様が言った『全部わかる時』はまだ来ていないけれど、確かに事態は少しずつ変化している。
 それならば、あまり悶々と悩んでいても精神的に良くない。
 進むべき道を見つけられたら、その時に進めばいい。
 やるべきこと、やれることひとつひとつクリアして次に繋げていく。
 そうして日々前向きに。
 いつも心に太陽を、だ。

 私は気持ちを切り替えるように笑みを浮かべると、今度こそカンちゃんの頭にそっとバンダナをかけ、心の栄養補給に繰り出すべく玄関へと向かった。