髪の毛をひとつに纏め、軽やかな花柄のガウンに腕を通した私は鞄を手に取ると自室の扉を閉める。

 さくちゃんとの待ち合わせは、午前十時におかげ横町の入り口にある招き猫近く。
 まだ時間には早いけれど、余裕を持って出て、昨夜のお礼にミヅハが喜びそうなお土産でも見ておこうかな。
 いや、それならみんなの分もだ。
 豆ちゃんにはみ〇りのたぬきがいいかなと考えながら板張りの廊下を進んでいたら、中庭に設けられている屋根のついた腰掛に寝そべっているカンちゃんを見つけた。
 彼の傍らには缶コーヒーが置いてある。
 宿の温泉は、清掃時間が夜中の二時から五時までとなっているので、大方、掃除後に休憩したら疲れてそのまま寝てしまったのだろう。
 まるで徹夜明けのサラリーマンみたいだなと苦笑したところで、違和感に気付いた。

 カンちゃんが微妙にカンちゃんじゃないのだ。

 仰向けで片膝を立て、大きな口を開けて寝ているのは確かにカンちゃんなのだが、何かが違う。
 どこだろうかと足先から頭のてっぺんまで視線を移動させて、私は目を見開いた。

「お皿!」

 なんということだろう。
 普段彼が必死に隠してている頭頂部の皿が丸見えになっているではないか。

 バンダナはどこにあるのかと忙しなく視線を動かすと、彼の手に握られているのが見えた。
 きっと寝ぼけて取ってしまったのだ。
 これは一大事だと、私はそそくさと中庭に出て、カンちゃんの手からそっとバンダナを奪う。
 どうやら熟睡しているようで、ピクリとも動かないカンちゃんに、私はバンダナを頭に被せようとして……それを、見つけた。

 お皿にうっすらと走る傷痕を。