少彦名様は神やあやかしのみならず、人の身体にも精通しているお医者様だ。
 怪我や病気の治癒はもちろんのこと、身体に流れる気を診ることも、身に巣食う穢れを祓うこともできる。

「ミヅハも一緒に診てもらうから、少し遅くなるけど宿の仕事が終わる頃にもう一度ここにおいで。それと、せっかくの休みだし自由にしててかまわないけど、何かあった時に対処できるよう、出かけるなら内宮さんの近くにはいなよ」
「うん、わかった」

 ひとつ頷いてみせると、真面目な顔をしていた母様の表情がニンマリと歪んだ。

「ところで、ミヅハはあんたになんで触れようとしたんだい? もしや口説かれたとか?」
「ち、違うから! ミヅハはただ──」

 わけも分からず涙を流す私を心配してくれただけだと説明しようとしたところで、羽織っているパーカーのポケットに入れていたスマホが震えた。
 画面に表示されているのはさくちゃんの名前。
 メッセージを開くと、今日はさくちゃんの仕事がお休みとのことで、時間が合えばご飯でも一緒に食べに行かないかというお誘いだ。
 さくちゃんと休みが同じという日は、互いに合わせない限りほとんどない。
 ここ数日、体調が不安定なことや婚姻話に変な夢を見たりと忙しないので、リフレッシュしたいと思っていたところだった私は、すぐにOKの返事を送った。
 そして、母様に「ミヅハは心配してくれただけ」と簡潔に話し、さくちゃんと出掛けてくると告げてから部屋へと戻る。
 扉を閉める間際、母様が楽し気にクスクスと笑っていたのが聞こえたけれど、気にしたら負けだ。
 聞こえないふりをして自室へと向かうと、私は出掛ける準備に取り掛かった。