「母様、いつきです」
「入りな」
促されて入室し、座卓の上に置いた湯呑を両手で包むようにして座る母様に「おはよう、母様」と挨拶をする。
「おはよう。具合は?」
「もう平気。母様こそ、また同じタイミング倒れたって、さっき天照様から聞いたわ。あと、先代水神様の願いを繋ぐために母様が何かして、そのせいで具合が悪いってことも」
「ああ、あの方は本当に口が軽いね……」
座卓を挟んで向かいに腰を下ろすと、母様はやれやれと首を振り、目元の小じわを深めて苦笑した。
「大丈夫。あんたみたいに倒れたわけじゃない。少しふらついた程度だ。それより、ミヅハから聞いたよ。昨夜、邪気の気配がしたあとにミヅハがいつきに触れられなくなったって?」
「そうなの。触ろうとすると電気が走るみたいにバチッと」
「どれ」
「あっ、ちょっと母様危ないからっ」
座卓越しにこちらへと手を伸ばした母様を声で制止するも、躊躇なく私に触れてしまう。
しかし、母様の手は特に弾かれることなく、すんなりと私の頬をぺちぺちと軽く叩いた。
「平気だね。ということは、神族全般に反応するというわけではなさそうだ」
「そういえば、さっき天照様が私の肩に触れたけど大丈夫だったわ」
「ここのあやかしたちは?」
「まだ誰にも会ってないから」
だからわからないと答える私に、母様は「そうかい」と胸の前で腕を組んだ。
「まあ、あたしや天照の姉さんには何もなく、ミヅハに反応するってとこで大方の予想はつくが……とりあえず少彦名殿を呼んで診てもらおうか」