「ま、その様子だと平気そうね。瀬織津もすぐに回復したし」
「母様も……って、まさか、また同じタイミングで!?」

 最初の眩暈に続き、今回も同じタイミングで体に不調をきたしたなんて。
 これはもうただの偶然ではないという気がしてならない。
 母様と私の身体にいったい何が起こっているのか。

「天照様、母様は大丈夫なんでしょうか」
「大丈夫よ。穢れたわけじゃないし、怪我を負ったわけでもない。ただ……そうねぇ、親友の願いを繋ぐ為に無理をしたから、それが今の瀬織津の体に負担をかけてるのよ」
「親友の願い?」

 母様の親友といえば、ミヅハの先代水神だ。
 先代の願いを繋ぐために、母様は何をしたのだろう。
 思案しながら瞬きしていると、天照様が「それより」と私の肩を両手でがしりと掴む。

「心配なのはいつきちゃんの身体の方よ。本当、しつこい男って嫌よねぇ」
「しつこい男?」
「しかも自分勝手!」
「あ、あの?」

 どんどん進んでいく話についていけず、首を傾げるばかりの私に、天照様は力強い笑みを浮かべて見せた。

「いい? 負けるんじゃないわよ? さっさとミヅハの嫁になって、ざまぁみろって笑ってやりなさいな」

 いや、誰に笑ってやるんですかと突っ込む間も、ミヅハとの婚姻の件は母様から聞いたんですかと問質す間もなく、天照様は私から手を離すと今度は自らの腰に当てた。

「さ、それじゃあ私は内宮の様子を見てくるわね。面倒だけど、瀬織津の分まで仕事してくるわぁ」
「は、はい。よろしくお願いします。いってらっしゃいませ!」

 しつこい男とは誰の話だろうと思いつつ、天照様にお辞儀をして見送る。
 天照様の話から気になることは多々あるけれど、今はとにかく母様のところへ行かなくては。
 私は再び廊下を進み、突き当りの部屋の前に立つと格子扉をノックした。