「昨夜の来客って、天照様だったんですか?」
「そうよぉ。大人しくすることが苦手なアタシの相棒が、暇だ暇だって呼ぶものだから」
相棒というのは、母様のことだ。
神道によれば、神はふたつの側面を持つと考えられていて、穏やかな側面を和魂、躍動的な側面を荒魂と呼ぶ。
内宮にある和魂の側面を持つ天照様が祭られている正宮の北に、荒祭宮と呼ばれる別宮があり、その祭神の別名が瀬織津姫なのだと、とある文献には記述されている。
つまり、和魂である天照様の荒魂が母様なのだ。
故に、天照様は母様をよく”相棒”と呼んでいる。
「それで、具合はどう?」
「え?」
「昨日、倒れたじゃない。瀬織津の部屋で話し込んでたら、干汰が血相変えて、いつきちゃんが倒れたって知らせにきたのよ」
「そ、そうだったんですね。お騒がせしまして……」
よく考えてみれば、天河の間で倒れたのだ。
あの場にいた皆、お客様である猿田彦様や天宇受売様、さらには豆ちゃんにまで心配をかけたに違いない。
皆で作り上げた庭園と、せっかく招待してもらい過ごしていた楽しい時間を台無しにしてしまった。
申し訳ないという気持ちがドッと押し寄せて、後ほど皆に謝りにいこうと心に決める。