「さっきの、聞いてたでしょ?どう思った?」
反応を見ることが楽しくなってきた私は、ナガトに聞いてみる。ナガトは相変わらずで、「別に」と吐き捨てた。
「別にってなによ、面白くないなぁ。私今日死ぬんだよ?」
周りの視線が、こちらに向いているのを感じた。わかってる。あなた達にとって死ぬことが間違っていることくらい。
「死にたいなら死ねば?」
ナガトの言葉が私を締め付ける。なんだろうこれは。当たり前のことを言っているのはわかっているし、別に傷ついたわけでもない。
それなのに何故かその言葉は、私の中でパワーワードだった。
「死にたいと思うやつは、死ぬ事が唯一の幸せなんだろ。だったら、そいつに『死ぬな』って言う方が酷じゃねぇか」
言葉が喉につっかえて出てこない。わかるのにわからない。
そうだ、ナガトの言うことは正しい。けど、死にたいと願う人を前にして、慰めの言葉も無視もせず、死ねと言う彼に驚いた。いや、尊敬したのかもしれない。
今までそんな人を、私は知らない。死を肯定する人に出会ったことがない。
ナガトの考え方は独特だ。その内側にある思考に、触れたいと思った。
「まあ、俺は死にたいなんて一度も思ったことは無いけどな」
「え?」
「理解できないか?同じく俺も、死にたいと思うやつの考えが理解できない。ただわかるのは、俺にとって生きることは幸せで、死ぬことは不幸だけれど、生きることが不幸で、死ぬことが幸せだと感じる人もいるってことだ」
ナガトは、決して何かを否定するような物言いはしなかった。それが私を動揺させたのかもしれない。
人間は、一人一人考え方が違う。何が正しくて、間違っているのか。大多数を占めるものが『普通』であり、それに反する者は間違っている。
間違っている者を、正したくなるのも人間。大多数側である『普通』に引きずり込むためには、相手の考えを否定する必要がある。
それは間違っていると。これが正しいのだと。
果たしてそれが間違っているのかなんて、知りもしないくせに。
『普通』だから正しいなんて誰が決めたんだ、どうして自分だけの『正しい』を許してくれないんだと、本当は叫び続けていたのかもしれない。
だから、驚いたんだ。否定をせず、ただ自分の思考を述べるナガトに。他人は他人で、自分は自分の世界があるんだと、言葉から滲み出ていた。
それが心地よかったんだ。
「ナガトって、すごいね」
「は?」
私はまた微笑む。背中で手を組み、腰をまげ、彼の顔を覗き込んで言った。
「語彙力ないけど、初めて出会った人種って感じ!」
ナガトは馬鹿にするように鼻で笑った。少しだけ怒りの目が見えたが、こんなことを考えている彼の胸の内なんて、私には計り知れない。
「そりゃそうだろうな。俺もお前が初めてだわ」
「え、意味わかんないんだけど」
「俺もお前のことよくわかんねぇよ」
コントみたいだと思って笑った。ほんの一瞬だけ。
まだ日は高く昇っている。次は食事を取ろうと、私たちは再び『普通』の人達で溢れた商店街へ向かった。
反応を見ることが楽しくなってきた私は、ナガトに聞いてみる。ナガトは相変わらずで、「別に」と吐き捨てた。
「別にってなによ、面白くないなぁ。私今日死ぬんだよ?」
周りの視線が、こちらに向いているのを感じた。わかってる。あなた達にとって死ぬことが間違っていることくらい。
「死にたいなら死ねば?」
ナガトの言葉が私を締め付ける。なんだろうこれは。当たり前のことを言っているのはわかっているし、別に傷ついたわけでもない。
それなのに何故かその言葉は、私の中でパワーワードだった。
「死にたいと思うやつは、死ぬ事が唯一の幸せなんだろ。だったら、そいつに『死ぬな』って言う方が酷じゃねぇか」
言葉が喉につっかえて出てこない。わかるのにわからない。
そうだ、ナガトの言うことは正しい。けど、死にたいと願う人を前にして、慰めの言葉も無視もせず、死ねと言う彼に驚いた。いや、尊敬したのかもしれない。
今までそんな人を、私は知らない。死を肯定する人に出会ったことがない。
ナガトの考え方は独特だ。その内側にある思考に、触れたいと思った。
「まあ、俺は死にたいなんて一度も思ったことは無いけどな」
「え?」
「理解できないか?同じく俺も、死にたいと思うやつの考えが理解できない。ただわかるのは、俺にとって生きることは幸せで、死ぬことは不幸だけれど、生きることが不幸で、死ぬことが幸せだと感じる人もいるってことだ」
ナガトは、決して何かを否定するような物言いはしなかった。それが私を動揺させたのかもしれない。
人間は、一人一人考え方が違う。何が正しくて、間違っているのか。大多数を占めるものが『普通』であり、それに反する者は間違っている。
間違っている者を、正したくなるのも人間。大多数側である『普通』に引きずり込むためには、相手の考えを否定する必要がある。
それは間違っていると。これが正しいのだと。
果たしてそれが間違っているのかなんて、知りもしないくせに。
『普通』だから正しいなんて誰が決めたんだ、どうして自分だけの『正しい』を許してくれないんだと、本当は叫び続けていたのかもしれない。
だから、驚いたんだ。否定をせず、ただ自分の思考を述べるナガトに。他人は他人で、自分は自分の世界があるんだと、言葉から滲み出ていた。
それが心地よかったんだ。
「ナガトって、すごいね」
「は?」
私はまた微笑む。背中で手を組み、腰をまげ、彼の顔を覗き込んで言った。
「語彙力ないけど、初めて出会った人種って感じ!」
ナガトは馬鹿にするように鼻で笑った。少しだけ怒りの目が見えたが、こんなことを考えている彼の胸の内なんて、私には計り知れない。
「そりゃそうだろうな。俺もお前が初めてだわ」
「え、意味わかんないんだけど」
「俺もお前のことよくわかんねぇよ」
コントみたいだと思って笑った。ほんの一瞬だけ。
まだ日は高く昇っている。次は食事を取ろうと、私たちは再び『普通』の人達で溢れた商店街へ向かった。