また人並みの多い街中に出る。
チェーンなんて、なんでも良かった。
近くにあった、百円ショップで銀色に輝くアクセサリー用チェーンを見つけて買った。
その場でハサミを借り、紐を切り捨て、リングにチェーンを通す。
そしてまた、指輪は私の首元に戻ってきた。
完成した。 世間に知られる〝若村有利〟の形が出来上がった。
いつか、どこかの水辺か水中で見つかる若村有利は、綺麗に髪の毛が巻かれ、美少女のように化かされた顔で、どこかのパーティにでも向かうようなネックレスや靴、鞄、ドレスを身に付けた、いかにも自殺なんてしなさそうな女性だと。
そう言われるのだ。例え見つかった状態がボロボロで汚らしいものであっても、「どうして死んだんだ」と言われるように。
一瞬でも錯覚してほしい。何故だと思って、どこか記憶の隅にでも置いていてほしい。
きっと、家や貯金額を見たら、死のうと思った経緯なんてすぐにわかるだろう。
それでもいい。美しく死ねる私は幸せなんだ。
「ナガト!これからどこに向かうの?」
私の完成形を見せつけるように、くるりと回ってみせる。
スカートがふわりと舞った。
「そうだな…。大分離れてることはわかる。でも、記憶が曖昧なんだ。多分商店街をぬけて、ずっと歩いた先の住宅街だと思うんだが…」
人混みの中、周りを見渡しながら眉を寄せるナガト。
「わかった。行こう!」
私は笑ってそう言い、前に進んだ。
この時の笑顔は、本物か偽物かはわからない。
ただほんの少しだけ、心臓が動いている気がした。