「どれにしようかな!」
意気揚揚とした私の目の前に並ぶのは、裏返されたトランプ。
それは単にシャッフルされただけのものではないし、枚数も揃っていない。
とりあえず十二枚。
四枚ずつ綺麗に並べられている、同じ顔をしたカード。
表の数字なんてどうでもよかった。気にするのは、その上に書かれた文字。
「これにしよーっと!」
するりと机の上を滑らせて、私の手に吸い付いたカードはダイヤの4。
それを覆い隠すように、黒いマジックで大きく文字が書かれていた。
「“溺死”かぁ」
一瞬、頭の上まで汚れた水に浸かる自分を想像した。ごぷりと一つ、口から空気が漏れて、私の中から消えていく。それは二度と自分の元にやってくることはない。
思わず笑みをこぼした。いや、溢れたのか。
手に持つカードを床に置き、背の低い机に座るトランプたちを一枚一枚捲る。
それらは皆、正体を現してご機嫌そうだった。
『飛び降り』『轢死(れきし)』『首吊り』『リストカット』『切腹』『焼死』『OD』『餓死』『毒死』『ガス』『凍死』
とりあえず、思いつくだけ書いてみた。
実際にできるかなんて知らない。無理なら別のやり方を選べばいい。
でもなんとなく、『どれにしようかな』で死に方を決めるのも面白いと思った。そんなことする人なんて、そうそういないだろうから。
溺死は、この中でも割と美しい死に方を選べたほうだ。
ODは失敗すると後遺症を持って生きなければならなくなるかもしれないし、飛び降りや轢死は後々が汚い。餓死には時間がかかるし、凍死なんてどこの雪山に行けばできるのだろう。登ること自体、面倒くさい。
そう考えると、どうしてこれらを書いたのか。結局、どのカードの仮面を剥がしても『溺死』を選んだかもしれない。
私に選ばれた死に方は、軽く指で(つま)まれた。そのまま立ち上がりぐんと伸びをする。
汚れたパーカーの上を、爆発した髪が撫でた。
「楽しみだなぁ!」
胸が高鳴る。こんなにも幸福を感じたのはいつぶりだろうか。
本来の機能を果たしていない薄い遊び道具は、少し力を抜くだけで、すぐに手から舞い落ちる。
カーテンの隙間から、眩しい朝日が無造作な文字を照らした。