「おい、いつまで寝ている。女料理人」
「んぁ?」

 ふかふかの布団で気持ちよく寝ていたのに、起こされてしまった。

「天空城に到着する前に気を失いやがって。手がかかる女だな」

 青い衣の男が、私を上から覗き込んでいる。

「てんくうじょう……そうだ、私、あなたに連れ去られたんだった!」
「だから連れ去ったわけではないといっているだろう。おまえが龍神に饅頭をもらったなどと嘘をつくから、少しだけ驚かせてやったのだ。本来はもう少し丁重に運ぶのだぞ」
「う、嘘だなんて」
「そこまで。おまえが嘘をつきたくなった理由はわからないでもないが、それでも言っていい嘘と悪い嘘がある。龍神を保身のために利用するな」

 悔しいけどその通りだった。最初は助けてほしくて龍神様に手を合わせていたのに、空腹だったとはいえ、饅頭を盗み、あげく龍神様に罪をなすりつけた。悪いのは私だ……。

「ごめんなさい。もうしません」
「おや。意外と素直だな。よろしい。その素直さに免じて今回だけは目を瞑ってやる。ただし一つだけ条件がある」
「な、なんでしょう?」

 青い衣の男は、にやりと笑った。

「ここに連れてくる道中で説明した通りだ。女料理人。主様のために料理を作れ。主様は体調を崩され、人間界の食べ物を懐かしがっておられる」
「なぜ私に?」

 都ではどこの料理店も私を女だからと門前払いした。この人も最初は怪訝そうに見ていた。私を必要としている理由がわからなかった。

「主様はな、女人(にょにん)なのだ。だから女料理人がいいかどうかは俺にもわからん。しかしおまえの目を見た時に直感したのだ。おまえなら主様をお救いできると。どうだ、この条件をおとなしく受け入れるか?」

 にやついた笑みは消え、真摯な眼差しで私をみている。その瞳に吸い込まれそうなほどだ。きっと本気で主様とやらをお救いしたいのだろう。私に何ができるかわからない。でも料理人として頑張ってみよう。

「畏まりました。謹んでお受けいたします」

 丁重に頭を下げる。これは仕事だ、料理人としての。青い衣の男は、再びにやりと笑う。でも今度は少しだけ優しそうだった。

「よろしい。頼んだぞ」
「はい!」

 ようやく私の都での(天空だけど)初仕事が決まったのだ。