「私は確かに女ですけど、れっきとした料理人ですっ! ねぇ、ちょっと、門を開けて下さいってば!」
「うるさい! 料理人は男の世界だ。女なんぞいるか。さっさと帰れ!」

 どれだけ門を叩いても、私のために扉が開くことはなかった。

「なんで、なんでよ。女だって料理人になれるのに。なんで女ってだけで」

 悔しい。父と同じように名料理人になることを夢見て、必死に頑張ってきた。亡くなった両親だってそれを望んでいるのに。体は少しばかり小さいかもしれないけど、私の料理は男の料理にだって負けてないという自信がある。それなのに。
 私は唇を噛み、泣くのを堪えた。ここで泣いたら負けだ。

「このままじゃ帰れない。他の店をあたろう」

「女? 女に料理人が務まるわけないだろ」
「客の隣で酌をするなら雇ってもいいぞ。男に媚びを売るのか女の仕事だ」

 私が女と知るや、無言で追い出す店まであった。数日間、なんとか粘って探し続けたけど、働き先は見つからない。

「どうしよう、もうお金ない……。村に帰ることもできない……」

 途方に暮れた私は、龍神様が祭ってある祭壇近くで座り込んだ。祭壇にはお供えものが沢山あり、都では龍神様を大切に祀っているらしい。

「龍神様、お願いですから私に料理人のお仕事をください」

 藁をもすがる思いで、龍神様にお祈りしたその時だった。

 ぐ~きゅるる~くぅるるる~

 お腹が盛大に鳴り始めてしまった。こうなると、もうダメ。一時も耐えられなくなる。

「お腹空いた……」

 お腹が空くと、もうそれしか考えられなくなってしまう。村を出発して、都で職探しを始めてどれだけ経っただろう。もう何日もまともにごはんを食べていない。

「疲れた……父様の(スープ)が飲みたい。饅頭(まんとう)も添えて。父様の湯は本当に美味しかったものね……饅頭も絶品だった」

 疲れ果て、遠い思い出に縋ってしまう。現実で目に入るのは祭壇のお供え物。いけないとわかっていても、どうしても目がいってしまう。

「ひとつだけ、ほんのすこしだけならいいよね……?」

 周囲に人がいないことを素早く確認すると、お供えの饅頭をひっつかみ、噛り付いた。

「お、おいしい~!」

 口いっぱいに広がる饅頭の優しい味わい。おいしい、なんて美味しいの。

「おい、そこの者。何をしている!」

 饅頭を頬張る私の腕を掴むものがいた。さっきまで誰もいなかったのに。
顔をあげた瞬間、目に飛び込んできたのは、目の覚めるような青い衣を纏った美貌の男性だった。