けれど彼らが話しかけて来る様子はなく、一時間位は何事も無く過ぎていった。

 案内されたテーブル席。居酒屋でも食事をしたけれど、先輩お薦めの料理とお酒を楽しんだ。
 緊張していた私も、今日は蓮が居ないと確信し、少しずつリラックスしていった。

「倉橋さん飲んでる?」
「はい」

 先輩の声に笑顔で頷く余裕も出来ていた。

 それからあっという間に時間は過ぎ去り、そろそろ終電の時間が気になり出したので、身支度のため化粧室へ向かった。
 簡単に化粧直しをして、衣服を整え席に戻ろうとすると、突然道を塞がれた。

「……蓮?!」

 いつの間に現れたのか、蓮が厳しい表情で私を見下ろしている。
 私は息をのみ立ち尽くした。
 まさかここに来て会ってしまうなんて。さっき迄は気配も感じさせなかったのに、いつ店に来たのだろう。
 言葉が出て来ない私より先に、蓮が口を開いた。

「一緒に居るの、誰だ?」
「え……会社の同僚だけど」

 挨拶も無しの質問に、戸惑いながら答える。
 蓮の機嫌が悪いのは、その表情と声から分かった。
 やはりこの前、雪香の話を聞かずに追い出したのを怒っているんだろう。
 そんな私が自分の店に居ることが、気に入らないのかもしれない。

「先輩に連れられて来たんだけど、もう帰るから」
「待てよ!」

 蓮の脇を通り過ぎようとすると、勢いよく腕を掴まれた。

「な、何?」

 ビクッとして立ち止まった私を、蓮は鋭い目で見下ろす。

「お前、何やってんだよ! 雪香の話も聞かずに追い出したくせに、こんな所で男と楽しんでるなんてどういうつもりだ?!」
「男って……」

 確かにグループに男性は居るけど、先輩をはじめ女性も居る。しかもさっき、会社の同僚だと言ったはず。それなのに、私がふしだらな人間の様な言い方をする蓮に腹が立つ。

「お前もいろいろ悩んでるんだろからこの前は引き下がったし、しばらく時間を置いてから連絡しようと思ってた。こっちは気を使ってたっていうのに遊び歩いていたとはな」

 明らかに軽蔑の目を向けられ、私の怒りは更に増していった。事情も聞かずに、思い込みで決めつけられたくない!

「雪香の話を聞かない限り、遊んじゃいけないって言うの?」

 私は蓮に負けないほど、不機嫌に言い返した。
 もうこの場に居る事情を説明する気は無くなっていた。勝手に誤解していればいい。
 蓮は私の態度に顔を強張らせる。