お互い嘘だらけで始めた関係なのに、今ではかけがえない存在になっているのだろうか。
 長年慕っていた蓮への気持ちを超える程の強い想い。
 あの日……感情的にならずに、雪香の弁明を聞いた方が良かったのか。
 今まで感じなかった後悔がほんの少しだけ胸を過った。


 それから数日後、退職の日がやって来た。
 あまり馴染めなかった会社でも、最後だと思うと少し寂しくなる。
 仕事の引き継ぎも退職の挨拶も終わった。手持ち無沙汰だけれど、私の送別会を開いてくれるそうなので、就業時間までをぼんやりと過ごした。
 この会社の飲み会に参加するのは初めてだから、なんとなく緊張する。

 近くの居酒屋で始まった送別会は予想していたより楽しかった。
 愛想の無い私にも、皆気さくに話しかけてくれたのだ。
 お酒が入ってるせいもあり、私は普段からは考えられないほどおしゃべりになり、沢山笑った。

 こんなに楽しい気持ちになったのは、本当に久しぶり。
 送別会が終わると、何人かで二次会に行く事になった。

「私、行きたいお店有るんだけど」

 女性の先輩がそう言い出し私を見る。

「倉橋さんはどこか行きたい店有る?」

 一応私の送別会という名目なので、気を使ってくれているらしい。

「私はどこでもいいです」
「じゃあ、タクシーで十五分位かかるけど、私の行きつけの店が有るから行こう」
「はい」

 他のメンバーも異論は無いようでタクシーを拾う為、大通りに移動を始めた。

「何て店なんですか?」

 歩きながら問いかけると、先輩はニコニコと上機嫌で答えた。

「リーベルって店よ、雰囲気が良くて料理もおいしいんだ」
「え……」

 先輩の言葉に私は衝撃を受けた。嫌な事は忘れて楽しんでいた気持ちも、一気に萎んでいく。

 まさか先輩の行きつけが、蓮の店だったなんて。今更蓮に会うなんて無理。今すぐ逃げ出したい。けれど楽しそうにしている同僚達に、なかなか帰ると言い出せ無くて、悩んでいる間にリーベルに辿り着いてしまった。

「席、空いてるかな?」

 先輩がドアを開け、店内に足を進める。私はグループの一番最後。様子を伺いながら付いていった。

 蓮は毎日店に来ている訳じゃ無いので、遭遇する可能性は半々だ。
 一見したところ彼の姿は無く、私はホッと胸を撫で下ろす。
 ただ顔見知りになっていたスタッフは何人か居て、私に気付いたようだった。