まるで懺悔をするミドリにどう反応すればいいのか分からず私は困惑していた。それでも彼の気持ちは理解出来た。
 間違っていると分かっていても、自分にとって一番大切な人を庇い守りたくなるのは、誰にだってある。

「……もういいよ。ただ秋穂さんを庇いたかっただけなんでしょ? あの時は
 
 怒りが沸いたけど私も嘘ついて脅したから。蒸し返す程気にしていない」

「嘘?」
 
 ミドリは怪訝な顔になる。

「証拠の写真撮ったって言ったでしょ? あれは全部嘘。そんな暇無かったし」
「そうなのか……沙雪なら出来そうだと思って、真に受けてた」

 苦笑いのミドリに、私は少し迷いながらもこれからのことを問いかけた。

「ミドリはこれからどうするの?」
「え?」
「秋穂さんとの関係とか……彼女離婚するんでしょ?」

 ミドリはさり気なく視線を逸らした。

「……子供がいるからフォローは必要だろうけど、具体的には何も決まっていない」

 ミドリは秋穂を女性として好きといいながら、積極的に彼女と関わろうとしていないように感じた。
 以前は必死になって守っていたのに。その心境の変化の理由が気にはなったけど、さすがにそこまで内面に踏み込めなかった。

 少しの沈黙の後、ミドリは話題を変えて来た。

「兄と秋穂の離婚は決まったけど、雪香は兄と別れる気が無いようだ。家を追い出されても気持ちは変わらないと言っていた」
「ミドリは雪香に会ったの?」
「一度会った、沙雪は会って無いのか?」
「……うちを尋ねて来たけど、ろくに話さなかった。どうしても雪香を許せなくて、追い返したの」

 傷ついた顔をしながらも、蓮に支えられアパートの部屋を出た雪香。
 あの日の光景を思い出すと、未だに胸が痛くなる。
 ミドリは私の冷たい対応を知っても非難するようなことはなく、ただ黙って頷いた。
 
 その後、私たちは穏やかに別れ、それぞれの道へ歩き出した。


 ミドリの話には驚く事が多かった。
 思ってもいなかった緑川家の内情と雪香の気持ち。

 お兄さんの今後の人生が相当厳しいものになるのは目に見えている。
 罪を償った後も、前科がついていては、就職も難しいだろう。
 今までのような恵まれた暮らしは送れない。それでも、別れないと言う。

 雪香は私が想像していた以上に真剣な気持ちで、ミドリのお兄さんと付き合っていたようだ。