秋穂が夫に無関心だったとは思えない。それなのに、どうして……。

「秋穂には知られないように取り繕ってたそうだけど、兄は資産運用に失敗したんだ。その失敗を取り返そうとして余計に悪化してしまった」
「その補填に会社のお金を? いつ頃から?」
「初めて横領をしたのは、雪香と出会う前だ。最初は少額だったけど、徐々にエスカレートしてしまったそうだ」

 ということは、一年以上前から、罪を重ねていたということになる。

「横領については、雪香も知っていたの?」
「初めはもちろん黙っていたが、失踪直前に話したそうだ」
「それなのに、別れなかったの?」。
「そうみたいだ」
「どうして……」

 雪香の考えが分からない。

「兄は誰にも投資の失敗を打ち明けられず追い詰められていた。両親は年老いているし、秋穂との夫婦関係も元から良くなく子供だけの繋がりだったそうだ。孤独で雪香のような何もかも話せる相手が必要だったのだと思う」

 確かに一人で抱えるには重すぎる秘密だとは思うけれど釈然としない気持ちが拭えない。
 家族って何なのだろう。一番困っているときに支え合えないなんて、あまりに寂しい。

「……そろそろ時間だ、貴重な昼休みにこんな話をして悪かったね」

 ミドリが店の壁に掛かっている時計を見ながら言った。

「ううん、こっちこそ事情を教えて貰えて良かった」

 かなり踏み込んで聞いてしまったけれど、ミドリは気を悪くする様子もなく答えてくれた。

「沙雪にはたくさん迷惑かけたし当然だよ」

 母や蓮はそんな気遣いしてくれなかったけど。ミドリは律儀なんだなと思った。

「もういいよ。家が大変なんだから私まで気にしている暇なんてないでしょ」

 少しだけ笑って言うと、ミドリは綺麗な形の目を細めた。

「沙雪には謝ることが沢山あるな……秋穂の行いや、俺の態度」
「ミドリ?」

 なんとなくミドリの雰囲気が変わった気がして、私は眉をひそめた。
 自分を俺なんて言っていただろうか。不審がる私にミドリは言葉を続ける。

「沙雪なら気付いてると思うけど俺は秋穂を好きだった、義姉としてじゃなく一人の女性として」

 突然のミドリの告白に、私は驚き息をのんだ。

「だから実家から距離を置いたし、関わらないようにしてた。頭では間違ってると分かりながら秋穂の過ちを見逃して、逆に沙雪を責めてしまった」