私は反発したけれど、結局ミドリが危惧していた通りになった。

「沙雪、顔色悪いね。何か有ったのか?」

 自分の酷い顔色を棚に上げ、ミドリは顔をしかめた。

「最近忙しくて寝不足だからかも。それよりお兄さんはどうなったの?」

 気遣って貰えた事を嬉しく思いなら、本題を促す。

「兄はこれから裁判になる、結果がどうなるか分からないけど前科がつくしこの先の人生は相当厳しいものになると思う」

 ミドリは顔を曇らせながら言う。

「そう……どうして横領なんてしたのか聞いた?」

 最も気になっていた事を聞くと、ミドリの表情は更に暗く憂鬱そうになった。

「それは……端的に言うと金の為だ。兄は経済的に相当困窮していたそうだ」
「経済的にって、本当に?」

 目の前に座るミドリをまじまじと観察する。
 高そうな生地の黒いシャツに、恐らくブランド物のシルバーのネックレス。
衣装にお金をかけているのが分かる。経済的に困っている様にはとても見えなかった。
 それに緑川秋穂も子持ちの専業主婦とは思えない程小綺麗な装いだった。

「沙雪の言いたいことは分かるよ。でも見かけはともかく、緑川家は本当に経済難だったんだ……僕が知らなかっただけでね」
「知らなかったって、そんなこと有るの?」

 お兄さんが横領する程困っている状態で気付かないなんて、信じられなかった。
 家計を預かりお兄さんが黙っていたとしても、勘が鋭そうなミドリなら異変に気付きそうな気がする。

「僕は大分前に家を出ていたんだ。それから滅多に帰らなかったんだ」
「ミドリは一人暮らしなんだ」

 なんとなく、実家に住んでいると思っていた。

「兄が結婚した時に家を出た。それ以来僕は実家の状況なんて何も知ろうともしないで、気楽な一人暮らしをしていた」

 ミドリは日本有数の商社で働いているそうだから、給料はかなり貰っているはずだ。
 お兄さんは何故、ミドリに相談しなかったのだろう。弟には言い辛かったのだろうか。

「でも、お兄さんが言わなかったとしても、秋穂さんに相談されなかったの?」

 秋穂はミドリに遠慮無く頼っているように見えたけれど。

「秋穂は経済状態の危機を知らなかったんだ。家計の管理は兄がしていたし、毎月の生活費は変わらずに渡していたようだから」
「え……いくら家計の管理をしていなかったと言っても、気付くんじゃない?」