彼は雪香の味方に決まっている。
 しばらくして電話を終えた蓮がクルリと振り返った。

「なあ……」

 声をかけて来たくせに、なぜかなかなか言い出さない。

「どうしたの?」
 蓮が遠慮するなんて、とても珍しい。いつもは、なんでもずけずけと聞いて来るのに。

「……佐伯直樹は、雪香が帰って来たらどうするつもりなのか知ってるか? おばさんに聞いてもはっきり答えないんだ」

 蓮は気まずそうな顔をしている。

「お母さんは聞いても答えないの?」
「ああ、今後については話し合ってる途中だとしか言ってくれなかった」
「そう……私は婚約破棄になると聞いたけど、お母さんがそう言うならまだ正式に決まってはいないのかもね」

 直樹は話がついたと言っていたけれど、義父と母は納得していないのだろうか。よく分からないけれど、もう私には関係無い。

「沙雪はその話誰に聞いたんだ?」
「え? 直樹からだけど」

 そう答えると、蓮の顔色が一気に変わった。

「あいつと会ったのか?」
「うん、数日前に」

 蓮は不愉快そうに眉根を寄せた。

「なんで黙ってたんだよ」
「なんでって、蓮は雪香の件で忙しそうだし、言い辛くて」
「その雪香に関係してる話だろ?」

 蓮は私をジロリと睨みながら言う。言われてみれば確かにそうだった。
 でも直樹から聞いた他の話で頭がいっぱいで、報告を忘れてしまった。雪香の婚約破棄は蓮にとっては重要だったのに。

「ごめん、ちょっといろいろ有って気が回らなかった」
「……何かあったのか?」

 私は静かに首を振った。

「雪香とは別件……転職とかで」

 蓮には直樹から聞いた話を言い出せなかった。
 私と雪香が敵対したら、もう蓮とはこうして話す機会もなくなるかもしれない。
 そう思うと、寂しさを感じた。

「そうか……転職活動上手くいってないのか?」
「やっぱり難しいよ、でもなんとか探さないとね」
「俺の知り合いに聞いてみるか?」

 蓮は顔が広そうだから、頼めば就職先が見つかるかもしれない。でも蓮に頼るつもりはない。

「ありがと、でも自分で探すから」


 それから少しづつ蓮と距離を置き始めた。
 雪香のことを相談したいのか、何度か連絡が来たけれど、就職活動が忙しいと言い会わずにいた。
 初めは不審そうにしていた蓮も、段々と連絡して来なくなった。
 その間、私は転職活動に力を入れていた。