直樹に、自分の気持ちをはっきりと言えたのは良かったけれど、そのおかげで知らない方が良かった事実まで聞かされるはめになった。
 雪香から直樹に近付いた。そして雪香は私を嫌っている。
 直樹なんかの言うことを、鵜呑みにはしちゃいけないと思いながらも無視出来ない。

 雪香は直樹が私の婚約者だと知らなかったと言っていたけれど、本当は何もかも分かっていて近付いたの?

 私を嫌っているのなら、最高の攻撃になる。
 現に私は大きなダメージを受け、今までずっと引きずっていた。
 それに、海藤や他の男に私の名前を使っていたのは、身分を隠す為というより、私への嫌がらせの為?

 不意に思いついた考えに、血の気の下がる思いだった。雪香は姿を消した日、私にだけ連絡を寄越した。
 その理由ははっきり分からないながらも、直樹を奪ったことへの罪悪感と双子の絆のようなものからだと勝手に思っていた。

 なぜなら雪香はいつも幸せそうで、誰かを嫌い恨むなんて姿想像しなかった。
 ましてや、私が憎まれているなんて……。
 でも雪香はなぜ私を嫌っているのだろう。
 長い間接点も無かったし、私は誰かに嫉妬されるような存在じゃない。
 それなのに何故……。

 考えを巡らせたけれど、動揺した思考では何も思いつかなかった。
 もし次に会ったとしたら、雪香は私に何を言うんだろう。再会の日が来るのを怖いと思った。


 直樹と決別してから三日後に、ミドリのお兄さんが見つかったとの連絡が入った。
 けれど、ミドリの家は今後の対応で大変そうで、会って詳しい話を聞くのは無理そうだった。
 
 その話を蓮に伝えると、想像していた以上に強い反応が返って来た。 
 雪香が戻った時、どうやって受け入れるか、義父は激しく怒るに決まっているから、その辺のフォローはどうするのか。私を相手に、一生懸命考えを語っていた
 
 そんな蓮の姿に、私は内心ため息を吐いていた。
 雪香が戻ったら、煩わしいことから解放される。
 海藤みたいな危険な人間に脅される心配もなく、安心して過ごせると。

 でも、本当にそうなのだろうか。

『そんな性格だから、実の妹の雪香にも嫌われるんだよ』

 直樹の言葉が頭から離れなかった。
 雪香が戻って来た後、私は元の生活に戻れるのだろうか。
 少し離れた場所でこちらに背を向けて電話をしている蓮に目を向けた。
 海藤の時は助けてくれたけど、もし雪香と揉めたら蓮は頼れない。