「それで話って何?」
「そうだな……いろいろ有るんだけど、まずは雪香の話だ」
「何か分かったの?」
「雪香とは婚約解消になった」
「え?!」
私は驚き、思わず高い声を上げた。
そんなことになっているとは、予想もしていなかったから。
直樹は華やかで美しい雪香に夢中だった。だからこんな状況でも、婚約解消はしないと思っていたのに。
「……どうして? もしかして雪香から連絡が有ったの?」
婚約解消して欲しいと、はっきり言われたのだろうか。
「違う。雪香からは一度も連絡なんて来ない。それで一昨日雪香の実家に行って、お義父さんと話し合った。そこで婚約解消に合意したよ」
「……でも、どうして」
思いもしなかった展開に戸惑っていると、直樹が少し気まずそうな表情で口を開いた。
「それで……俺は沙雪とやり直したいと思ってる」
「……!」
あり得ない発言に大きな衝撃を受け、私は言葉を失った。
「沙雪、話聞いてる?」
黙り込んだ私の様子を窺うように、直樹が声をかける。悪びれないその態度が信じられなかった。
「聞いてるけど、驚き過ぎて言葉が出てこない」
私の言葉に、直樹は納得したように相槌を打つ。
「分かるよ、沙雪にとっては突然の話だろうし……でも俺は前から考えてたんだ」
「前から考えてたって、私との復縁を?」
「ああ」
「……いつから?」
「沙雪と一緒に雪香の友達に会った日から、あの日の事覚えてるだろ?」
私は険しい表情のまま頷いた。
直樹の言っている日の出来事を思い出したのだ。
あの日、雪香の思いの外乱れた異性関係を初めて知り、直樹はショックを受けていた。
だけど、まさかそんなにあっさり気持ちを切り替えるなんて……。
好きだからこそ、雪香の異性関係が許せないのだろうか。
その気持ちが少しは分るし、婚約解消も直樹の自由だ。
でも雪香と別れるからって簡単に私のところに戻って来ようとする態度には怒りを覚えた。
私を都合良く扱おうとする直樹が許せない。
「はっきり言っておくけど、私は直樹とやり直す気は無いから」
睨みながらそう告げると、直樹は驚き動揺した。
その態度は私が断るとは思ってもいなかったということ?
どこまで馬鹿にしてくれるのだろう。
胸に広がって行く怒りが、私を攻撃的な気持ちにする。
「今更よくそんなことが言えるよね? 自分の発言を理解しているの?」