ミドリの指摘した当たり前の事実が、胸に突き刺さり、鈍い痛みが胸中に広がっていく。

「それならいいんだ。余計な事言って悪かった」

 ミドリがバツが悪そうな表情で言い、私は小さく頷いた。

「ミドリもいろいろ大変だと思うけど、新しい情報が入ったら教えて欲しい」
「分かってる。今日は急に呼び出して悪かった……それにこの前も……」

 彼が、ファミレスでの出来事を言っているのだとすぐに分かった。

「それはもういいよ。ミドリの態度は秋穂さんを庇いたい気持ちからだと分かってるから、もう気にしないで……私だって言われっぱなしで黙ってた訳じゃないし」

 ミドリは何か言いたそうな様子だったけれど、結局何も言っては来なかった。

 私達はその後直ぐに店を出て、そのまま別れた。
 すっかり暗くなった街を、一人、駅を目指して歩いて行く。

 ミドリとの会話を思い出すと、気持ちが沈んだ。
 決して蓮に頼ったり、依存しているつもりは無かった。
 直樹に捨てられた時、もう誰かを頼らないと決心したのを忘れた訳じゃない。

 そもそも蓮は私の恋人じゃ無いし、直樹との関係とは全く違う。
 そう分かっているのに、蓮の言ってくれた言葉が嬉しくて、差し伸べてくれた手が頼もしくて、いつの間にか自分でも驚く程心を開いてしまっていた。
 雪香が帰って来れば、余計な問題に巻き込まれずにく静かに暮らせる。

 それなのに、喜べない自分に困惑した。
 思っている以上に、蓮に依存していたんだと気付かされた。このままじゃいけない……。
 もう必要以上に蓮と関わらない方がいいのかもしれない。

「沙雪!」

 もう少しで駅に着くという時、大声で名前を呼ばれた。声の方を振り返ると、蓮が駆け寄って来るところだった。

「……蓮」
「何度も呼んでるのに、無視すんなよ」

 私の前で止まった蓮は、不機嫌に言う。

「……ごめん、全然気づかなかった。それよりこんな所で何してるの?」

 考え事をしていたせいか、本当に聞こえていなかった。蓮は更に気分を悪くしたようで、顔を歪めた。

「何してるって、お前を迎えに来たに決まってるだろ……行くぞ」
 
 蓮はくるりと身を翻すとどんどん歩いて行ってしまい、私は慌てて後を追いかけた。
 まさか迎えに来てくれるなんて思ってなかった。でも蓮が来てくれた事が嬉しかった。