ミドリは顔を曇らせた。反対したいけれど、私が譲歩しているのを分かっているから悩んでいるようだった。

「沙雪は彼と親しくしているのか? 以前はそうは見えなかったけど」
「まあ、いろいろ有って」

 言葉を濁しながらも頷くと、ミドリは少し驚いたようだった。

「なんだか意外だな……沙雪は誰とも馴れ合わないと思っていたから」
「別に馴れ合ってる訳じゃ……ただもう雪香の件を一人で抱えて悩むのは嫌なの。それに蓮は雪香の為を想ってる。義父に話して大事にするような行動は取らないはずだから」

 ミドリはしばらく考え込んでいたけれど、しばらくすると小さな声で言った。

「分かった、でも……」
「でも?」

 険しい顔のミドリに聞き返す。

「あまり彼を頼り過ぎない方がいい」
「別に頼ってなんて……」

 ミドリの言葉に驚き、私は言葉を詰まらせた。
 海藤とのトラブルでは助けてもらったし、その後も親しくはしている。でも蓮に、必要以上に頼っているつもりは無い。

「頼っているように見えるよ。前は彼の言葉に耳を貸さなかったけど、今はかなりプライベートな話も抵抗がないようだし……短い間に随分距離を縮めたんだね」

 決めつける言い方に、苛立ちを覚えた。
 私は今迄一人でちゃんとやって来たのに、蓮と親しくしているだけで、自立心を否定しないで欲しい。

「蓮との付き合いを、ミドリにとやかく言われたくない」

 少し前に自分も踏み込んだ発言をしたのは棚に上げて、素っ気なく言う。
 ミドリは顔を曇らせた……言い過ぎたかもしれない。
 だけど、取り繕う気にもなれず、私も黙り込んだ。

「……話さないでくれって頼んでいながら矛盾したことを言うけど、兄が見つかったら、雪香も戻って来る可能性が高い」

 さっき言ったのと同じ内容を、ミドリは真剣な表情で言った。

「それは分かってるけど」

 なぜまた話を蒸し返すのだろう。戸惑う私に、ミドリは更に言葉を続ける。

「それなら、雪香が帰って来た後の生活も考えておいた方がいい……雪香が居たら彼は沙雪に構っている暇は無いかもしれない」
「……!」

 ミドリの言葉に、私は動揺して息をのんだ。

「……そんなの、言われなくても分かってる。それに今は蓮に助けて貰ってるけど、雪香が戻れば私がトラブルに巻き込まれることも無くなるんだから、助けても要らなくなるだろうし」

 冷静を装いながらも、動揺はなかなか治まらなかった。