「雪香が一緒に居ると分かったら、すぐに彼女の家族に連絡する」

 それでは結局、ミドリのお兄さんが見つかる迄、母達には言わないままになる。
 何の解決にもならない。

「私から言うのはどう? 確証が無いとちゃんと伝えるから」
「沙雪がそう言えば、どこで聞いたんだって問い詰められるだろ? 兄との関係が知られたら大事になる。雪香の父親が厳しい人だと知ってるだろ?」
「それは……そうだけど」

 確かにあの義父が知れば怒り狂い、ミドリの実家に乗り込んで行きそうな気がする。
 混乱中の緑川家としては、それは避けたいだろう。

「……私が言わなくても、義父は雪香の行方を追っているから、お兄さんとの関係もその内ばれるんじゃない?」
「その時は仕方ない。でもなるべく時間を稼ぎたい……せめて秋穂が実家に帰るまでは」

 ミドリは憂いを帯びた顔で溜め息をついた。その様子は、先日のファミレスでの出来事を彷彿とさせる。
 彼は秋穂の事を心配するばかりで、客観性を失っていた。秋穂を責める私に、ひどく攻撃的で……。
 あの時も感じたけれど、ミドリと秋穂の関係は普通の義姉弟とは違っている。

「ミドリは秋穂さんが好きなの?」
「え……」

 ミドリは顔を強張らせる。

「ごめん、踏み込んだこと聞いて……ただミドリは彼女が絡むと態度が変わるから。彼女をことだけを考えて、他の人の気持ちを蔑ろにするんだとしたら、それは違うと思ったから」

 普段なら人の事情にここまでに口出しはしない。ただ今は状況が違う。
 ミドリは険しい顔をしていたけれど、ややして語りはじめた。

「秋穂とは幼なじみで、子供の頃から一緒だった。兄と結婚した後も兄嫁というより、仲の良かった幼なじみとして接していた」
「……幼なじみ」

 子供の頃はお兄さんも入れて三人一緒に過ごしていたのだろうか。

「彼女は昔から頼りなくて、兄も俺も過保護になっていたかもしれない。でも今回、雪香の実家に話さないで欲しいのは秋穂の為だけじゃない。家族みんなの為だ。両親をこれ以上苦しませたくないんだ」

 家族の為……確かに緑川家の混乱は相当なものなのかもしれない。人を気遣う余裕がなくて仕方ないともいえる。

「……分かった、雪香の実家に直ぐには言わないようにする。でも今日ミドリと会うのを蓮に話してあるの。必ず内容を聞かれると思う。彼には話してもいいでしょ? もちろん口止めはするから」