「今、話せよ。これから予定がある訳じゃないだろ?」
「え?……でも」

 今からどこかに行くのは正直めんどくさい。部屋に上げるのも抵抗が有るし。どうしようかと悩んでいると、遠慮がちな声音で呼びかけられた。

「倉橋さん?」

 蓮とふたりで声の方を向くと、三神さんの姿が有った。

「あ、こんばんは」

 探るように蓮を見ている三神さんに、会釈をする。

「誰だ?」

 蓮は私にそう問いながら、三神さんを見返している。
 誰だ? なんて本人の前で堂々と聞いて来ないで欲しい。
 三神さんが気を悪くしたら嫌だなと思いつつ、少し素っ気なく答える。

「隣の部屋の方」
「隣の?」

 蓮はそう呟くと、不躾にジロジロと三神さんを見た。

「ちょっと……」

 失礼な態度を注意しようとした時に、三神さんが尋ねて来た。

「倉橋さんの友達?」
「はい、すみません廊下で話し込んじゃって……すぐに出かけますから」

 私の返事に、三神さんはホッとしたような笑顔になった。

「友達なら良かった、遠目では倉橋さんが絡まれてる様に見えたから、心配したんだ」
「え、絡まれてる様に?」

 驚き、反射的に蓮を見た。蓮は気分を害したのか、ムッとして三神さんを睨んでる。本当に短気だ。すぐに揉め事を起こしそうでハラハラする。

「大丈夫です。ちょっと話してただけなんで」

 早く三神さんに部屋に入ってもらった方がいいと思い、愛想笑いを浮かべて言うと三神さんは頷いた。だけど何かを思い出したように眉をひそめた。

「お節介でごめん、でもこの前の手紙のこともあるし、心配だったんだ。最近はこの辺りも物騒だからね」
「あ……手紙の件はすみませんでした。でももう解決しましたので大丈夫です」

 秋穂がまた手紙を送ってくる可能性は無いと思うけど、念の為明日ミドリに釘を刺しておこう。
 そう考えながら答えてると、頭上で不機嫌な声がした。

「手紙って何の話だ?」

 会話についていけなくて不満を感じているのか、蓮の機嫌は悪くなる一方だった。

「後で話すから」

 早口で言い三神さんに挨拶をする。蓮を引っ張り車に戻った。

「手紙は雪香とは直接関係無い話だから」と言ったけれど、蓮が納得しないので、結局リーベルで食事をしながら話すことになった。

 結局こうなるなら初めから行ってれば良かった。
 そうすれば、時間を無駄にせずに済んだし、三神さんとも会わなかったのに。