でも彼女は蓮を想っていた。大切にされてなくても、一緒にいたいと願っていたのかもしれない。

「もういい加減な気持ちで、誰かを傷付けたりしないと決めた」
「そう……」

 それなら蓮はもう誰とも付き合え無いんじゃないのかな。
 蓮にとって雪香は、いつまでも一番大切な妹なんじゃないかと思う。
 今この時だって、蓮の心の中には、雪香を心配する気持ちでいっぱいで……。

「どうしたんだよ? 怖い顔して」

 強張った私の表情を見て、蓮は怪訝そうに言う。

「……何でもない」

 私は蓮から目をそらした。
 
 今日、私の見えていなかった雪香の本当の姿を沢山知った。
 幸せだと思っていた雪香の苦しい環境。叶わなかった恋。
 きっと雪香は私が思っていたより、ずっと苦労したし、辛かったはずだ。
 でも、それでも私は雪香を羨ましいと思う。
 蓮に……誰かに、何よりも気遣い大切にしてもらえる雪香が、泣きたくなる程羨ましかった。


 その後、少し話をしてから送ってもらい帰宅した。
 蓮は車から降りて、アパートの階段迄ついて来てくれた。

「海藤の件は、もう心配するなよ」

 別れ際、蓮は軽い調子で言った。

「本当に大丈夫なの?」

 助けて貰えるのは嬉しいけど、海藤が相手だと思うと心配になる。
 私に代わって、蓮が酷い目に遭ってしまうかもしれない。
 浮かない顔の私に対して、蓮は余裕の表情を崩さなかった。

「大丈夫だって言ってるだろ? うじうじ言ってないで早く帰れよ」
「……うじうじって」

 言い方は気に入らないけれど、気持ちは軽くなった。
 蓮に言われた通り、階段を上がり部屋に向かう。
 途中思い立ち、私が部屋に入るのを待っている蓮を振り返った。

「今日はありがとう……蓮」

 蓮は驚いたように目を見開く。
 そんな彼に控えめに手を振ってから、部屋に入った。
 

 蓮はあれからすぐに動いてくれたようだった。
 期日になっても、海藤が何か言って来る気配はなく、私はホッと胸をなで下ろした。
 ただ念の為しばらくの間は蓮が送り迎えすると、毎日やって来た。。

「お待たせ」

 オフィスビルを出るとすぐに、待っている蓮の姿が目に入る。
 私が駆け寄ると、蓮もゆっくりと近付いて来た。

「お疲れ。今日は店寄ってくか?」

 近くに停めてある車に向かう途中に、蓮が確認して来る。
 リーベルの料理をとても気に入ったと話してから、必ず聞かれるようになっていた。