「多分な。それで雪香も家に居辛くて、俺の家で過ごす時間が多くなった。雪香は気軽に遊びに行けなかったから、うちしかなかったんだ」
「……そうだったんだ」

 雪香がなぜ蓮に執着するのか。
 蓮が恋人よりも雪香を気にかける理由が、少し分かった気がした。

 雪香にとって蓮の側は、唯一安心出来る逃げ場所だったのかもしれない。
 私にも手を貸してくれる位だから、蓮はきっと面倒見の良い性格なんだろう。
 頼って来る雪香を気にかけて、守っていた。
 二人の間には、長い時間をかけて築いていった絆が有る。雪香が蓮に恋したのは当然の事に思えた。
 でも蓮はどうして、雪香を恋人として受け入れなかったんだろう。

「ねえ……どうして雪香と付き合わなかったの? 雪香の気持ちに気付いて無かったわけないよね?」

 蓮は困ったような表情になった。

「前にも言ったけど、雪香は妹のようなものだ、女としては見れない」
 
 確かに出会って間もない頃に、蓮はそう言っていた。私は信じなかったけど……。

「でも付き合ってみたら気持ちが変わるかもしれないのに、どうして雪香に限っては慎重だったの? 他の女性とは派手に遊んでたって聞いたけど」

 以前、雪香の友人に聞いた話を思い出しながら言うと、蓮は不快そうに顔をしかめた。

「誰がそんなこと言ったんだよ?」
「噂で聞いただけ。でも彼女への態度見た時、噂は本当だったんだって思った。あの態度は酷かったもの、まさに遊びって感じだった」

 私が一気に言うと、蓮は返す言葉が無いのか、ふてくされたような顔をして目をそらす。
 けれどしばらくすると、真剣な表情で口を開いた。

「雪香に対しては、適当なこと出来なかった。恋愛対象にはならなくても、俺にとって雪香は誰よりも大切な存在だったから」

 蓮の雪香への想いを感じ、圧倒された。なぜか胸が苦しくなる。

「……そうなんだ」
「雪香が、比較的自由に行動出来るようになってからも心配だった。当然のように彼女より優先してた。でもこの前沙雪にはっきり指摘されて初めて自分の考え方がおかしいと気付いた」
「それで彼女と別れたの?」

 この店に入る時に聞いた言葉を思い出しながら言うと、蓮はゆっくりと頷いた。

「あいつにも悪いことをしたと思ってる」
「彼女、可哀想……」

 蓮が彼女に別れを切り出したのは、自分の不誠実さに気付いたから。今のままじゃいけないとけじめをつけたんだと思う。