蓮は黙って話を聞いていたけれど、雪香の義父に会いに行った話をすると、顔色を変えた。

「どうかした?」

 蓮の変化に私は戸惑い話を止めた。

「いや、何でも無い。それより続きを話してくれ」

 とても何でも無い様には見えないけど……。

「義父に何か問題が有るの?」

 私の言葉に、蓮は少し考え込んでから答えた。

「その話は後でちゃんとする、今は海藤の件のが先だ……話を続けてくれ」

 腑に落ちないながらも、蓮の言う通り、今解決しないといけないのは海藤の件だった。
 私は義父に言われた内容、母の取った態度。そして落ち込みながら帰って来たところに、蓮が待っていたところまでを全て話した。

「……分かった、海藤は俺が何とかしておく」

 話が終わると、蓮はあっさりとそう言った。

「え……なんとかするってどうするの? もしかして二百万円を代わりに払ってくれるの?」

 蓮の家はかなりの豪邸で資産家の様だし、このリーベルも繁盛してるように見える。彼にとっては二百万円が、大した金額じゃないのかもしれない。そう考えたけれど、蓮はすぐに否定した。

「金はやらない、調子に乗らせるだけだからな。適当な理由をつけていつまでもたかられ続けるだろ?」
「じゃあ、どうするの?」
「話し合いで解決する」
「それは無理でしょ?」

 海藤は、普通の生活を送っている様に見えなかった。
 きっと他人に暴力を振るうのを躊躇わない。交渉出来る相手じゃないと思うけど。

「心配すんな、任せておけ」

 不安になる私に、蓮は余裕の顔で言う。
 同時に部屋の扉が開き、食事を持ったスタッフが入って来た為、反論しそびれた。

 私としてはうやむやのまま海藤の話は終わってしまった。でも気分は大分楽になっていて、用意して貰った料理をかなり食べられた。
 以前も思ったけれど、この店は料理が美味しい。だから人気が有るのかな?
紅茶のおかわりを飲みながら、そんな事を考えていると蓮が話しかけて来た。

「沙雪は好き嫌いないのか?」

 一瞬何の事か分からなかったけど、すぐに食べ物の話だと気付いた。

「無いけど。コーヒーが苦手なくらい」

 深く考えずに答えると、蓮は、過去を思い出す様に目を細めた。

「双子でも違うものなんだな……雪香は野菜が嫌いだった」
「雪香が?」

 私は意外な気持ちで聞き返した。

「野菜は殆ど食べなかったな、肉ばっか食べてた」
「……知らなかった」