反射的に頬に手を持って行くと、蓮の言うとおり涙で濡れていた……自分が信じられない。
 人前で、鷺森蓮の前で泣いてしまうなんて。
 泣いてると気付かない程、混乱してしまうなんて。
 私は急いで涙を拭うと、蓮から目をそらした。
 これ以上話してたら、更にみっともない姿を見せてしまいそうで、何も言えなくなってしまう。

「……沙雪」

 いつの間にか距離を縮めて来た蓮の声が、頭上から聞こえ私は顔を上げた。

「……何?」

 気まずい思いのまま返事をすると、蓮は私を見下ろしながら言った。

「沙雪が人を寄せ付けない理由は分かった。けど今、何か問題が有って悩んでるんだったら俺に話せ。 俺は裏切ったりしないし、必ず力になる……だから、もうそんな風に泣くなよ」

 穏やかで優しさすら感じる蓮の声に、私は驚き目を見開いた。
 鷺森蓮がそんなことを言うなんて、想像もしていなかったから。

「……どうして? 私を助けたって雪香は帰って来ないって言ったでしょ?」

 掠れた声で言うと、蓮は苛立ったように答えた。

「今は、雪香は関係無い。お前も切り離して考えろよ」
「切り離してって……どうして?」
「俺が沙雪に手を貸したいと思うのは、雪香の姉だからじゃない。俺達何回会って、どれだけ話したと思ってるんだ? 雪香は関係無しに繋がりが有るだろ? 困ってたら手を貸すのは当然だ」

 蓮の言葉は衝撃的だった。私と蓮の間に、雪香抜きの関係が存在するなんて……。

「……まさか、私を友達だとでも思ってるの?」

 そう問いかけると、蓮は迷い無く頷いた。

「ああ、だからお前も遠慮無く頼れ。俺はかなり頼りになるから」
自信過剰な蓮の言葉に、呆れてしまう。

 でもそれよりも、差し伸べてもらった手が嬉しくて、心強くて、久しぶりの涙が止まらなくなった。

「……おい、いい加減泣き止めよ」

 いつまでも涙が止まらない私に、蓮が困ったような顔をする。
 時折通り過ぎる人達の何か言いたそうな視線が気になるのか、蓮は居心地が悪そうだった。

「そんなこと言われても……」

 今迄、泣いて無かったせいか一度溢れ出した涙はなかなか止められない。

「……仕方無いな……こっちに来い」

 蓮は私の手を引き歩き出した。
 どこに連れて行かれるのか分からなかったけれど、不安は無かった。
 しばらく歩くと、蓮は止めてあった車の助手席に私を乗せて、車を発進させた。