直樹にすら言えなかった怒りと悲しみを、蓮にぶつけていた。こんなに感情的に叫んだのは、初めてだった。
 直樹に別れを切り出された時も、胸の中は荒れ狂っているのに、それを見せないように自分を抑えた。
 裏切った二人に泣き叫ぶところを見せるのは、自尊心が許さなかった。

 冷静に振る舞い、割り切った振りをして……でも本当は少しも割り切ってなんていなかった。
 無理をして感情を抑えたせいで、私は歪んでしまったのかもしれない。

「……佐伯直樹は、お前がそれ程傷付いた事知らないだろ?」

 驚き目を見開いて私を見ていた蓮が、しばらくの沈黙の後に言った。

「知らないでしょ……言って無いんだから」
「なんで言わないんだ? お前がいつまでも引きずってるのは、自分の気持ち言わないで溜め込んでるからじゃねえの? 佐伯直樹に怒りをぶつければいいだろ?」
「そんなこと、出来る訳無いでしょ?!」

 私は強く言い返す。

「何でだよ? まさかプライドが許さないとか言わないよな?」
「……そうだよ、それで裏切りを知った時も騒ぎ立てなかった」

 蓮はイライラしたように溜め息を吐く。

「馬鹿じゃねえの? くだらないプライドに拘っていつまで引きずる気だよ?! 今すぐ佐伯直樹と決着つけて来いよ!」

 考え無しの発言に、私はカッとなり声を荒げた。

「今更言える訳無いでしょ?! 勢いで適当なこと言わないでよ!」
「適当に言ってるんじゃない、何で言えないんだよ? 」

 本当に何も分かっていない。苛立ちが抑えられず蓮を睨みつけた。

「だって二人の婚約を誰もが祝福している……お母さんだってすごく喜んでる……それなのに私が騒いだらどうなると思うの? 何もかも台無しになるかもしれない。私以外はそんな事態望んで無いでしょ? 直樹も雪香も許せないけど、実際に壊すなんて私には出来ない」

 私の言葉を聞いた蓮は、ハッとしたような顔になると黙り視線をそらした。

「私がどう思おうが、今更どうしようもないから」

 私の心が癒える日なんてきっと来ないのだから。
 蓮は何も言い返して来なかった。だけどしばらくすると、それまでとは違った静かな声で言った。

「お前の気持ちはどうなるんだよ、泣くほど辛いのに……ずっと救われ無いままでいいのか?」
「……え?」

 哀れむような目をした蓮の言葉に、私は驚愕した。