「頼るって誰に?! 誰よりも信じていた直樹に裏切られ、実の母親にも見捨てられた私が誰を頼れるって言うの? 私には誰も居ない……助けてくれる人なんて居ないの!」
自分の力とは思えない程の勢いで、蓮の腕を振り払いながらそう叫んでいた。
直樹に裏切られた時、もう誰も信用しないし、頼らないと決めたけど、今回の事は本当に堪えていて、誰かに助けて欲しいと強く思った。
だからお母さんを頼ったのに……お母さんは、私の為に夫に意見すらしてくれなかった。
頼ったって、結局余計に辛くなっただけだった。
私には、雪香や秋穂みたいに守ってくれる人なんていない。
「俺に話せ! 雪香の関係で何か有ったんだろ? 必ず助けやるから」
道を塞ぎ、私を見下ろしながら強い口調でそう言った。
「簡単に言わないでよ…… 何も分かってないくせに」
あの恐ろしい海藤の存在を知ったら、私に手を貸す気なんて無くすに決まってる。
蓮にとって私は、危険な目にあってまで助けたい相手じゃないんだから。
「適当な気持ちで言ってるんじゃ無いし、事情は今から聞く」
「さっきも言ったけど話す気は無いから。帰ってよ」
本当は助けて欲しかった。でも事情を打ち明けたあとに背を向けられたら、きっと今よりも辛い気持ちになる。
「なんでだよ?!」
私なんて放っておけばいいのに、なぜしつこく拘るのか分からない。
でも理由は分からないけど、蓮が本当に心配してくれていると感じ胸の中を渦巻いていた苛立ちが和らいだ。少しだけど冷静さが戻って来る。
「何かに期待すると駄目だった時に辛いから、初めから期待したくないの……それに問題はもう解決するから、人の手を借りなくても大丈夫」
二百万円を払えば、海藤の脅威からは解放される。手段は有るのだから、あとは私が気持ちに折り合いをつければいいだけ。
「……お前、まだ佐伯直樹のことを引きずってるのか? だからそんなに頑ななのか?」
その言葉を聞いた瞬間、せっかく取り戻した冷静さが一瞬で消え去った。胸に鋭い痛みが走る。
黙る私に蓮は話し続ける。
「裏切られて怒るのは分かるけど、もう半年以上前の話だろ? 何でそんなに……」
「私にとって、一生忘れられない程ショックなことだった! 直樹は初めて付き合った人で結婚して、ずっと一緒だと信じてたのに……たった一言で終わりにされるなんて……」
感情が不安定過ぎたせいかもしれない。