夫に裏切られた秋穂が、頑なになる気持ちは理解出来る。
 他の女性に心変わりし家族を捨て、更には犯罪者にまで成り下がった父親なんて必要無いと思っても無理は無い。
 でも、ミドリの心配している姿を見るとお兄さんに同情する気持ちも湧いて来てしまう。

「秋穂さんの気持ちはよく分かるけど……でもいくら秋穂さんが拒否しても、面会の権利はお兄さんに有るんだから、もう一度話し合ってみたら?」

 少しでも元気になって欲しくて、励ますとミドリは僅かに微笑んだ。

「ありがとう、それから兄の裁判はまだ始まって無いけど、横領した金額が多いことと逃亡した経緯から実刑は確実だそうだ」
「……そう」

 苦しそうに言うミドリを見ていると、私も辛い気持ちになる。
 お兄さんが悪いのは間違い無いけれど、早く罪を償ってやり直してもらいたいと思う。

「それから雪香だけど……」

 ミドリが暗くなった雰囲気を変えるように、明るい表情を向けて来た。

「兄を待つ為に家を出る覚悟だったそうだけど、予想外に義父が助けてくれてるようで、この先も家に居るそうだ」
「え? あの義父が?」

 信じ難かった。

「俺も意外だったよ、親なら縁を切らせようとするはずだと思ってたから……でも義父は雪香を追い出す事もなく、仕事まで世話をしたそうだ。雪香は今、必死に慣れない職場で頑張ってるそうだよ」
「どんな仕事をしてるの?」
「中小企業の一般的な事務だそうだ」

 雪香が事務……しかも中小企業。イメージが全く合わない。
 でも、きっと頑張ってるんだろう。

「良かった……ちょっとは気にしてたから」
「そうか、でも元婚約者とはまだ揉めてるそうだ」
「え? だって直樹とは別れたって……」

 直樹にも雪香にも、直接そう聞いたのに。
 今更何で揉めてるんだろう。

 困惑しているとミドリが説明してくれた。
 どこで調べたのか、事情を全て知った直樹が、雪香に慰謝料を請求して来たらしい。
 直樹としてはプライドを傷つけられたから、雪香を許せない気持ちでいっぱいなんだろう。

「義父が対応してるから、金銭的には大丈夫だと思うけど、やっぱり噂が立つのは防ぎきれないからね、雪香もその辺では苦労してるみたいだ」
「そうなの……蓮もそんなことになってるなんて言って無かったから、何も知らなかった」

 相槌を打ちながら言うと、ミドリは少し複雑そうな顔をした。