何度も、大嫌いだと思った二人なのに、今私はこんなに心を許してる。

「どうしたんだよ?」

 怪訝な顔で振り返る蓮に、首を振ってみせた。

「何でも無いよ」

 蓮とミドリ、二人が居てくれることが、本当に嬉しくて幸せだと思った。



 一ヶ月後。
 私は、ミドリの友人に紹介して貰ったアパートに、無事引っ越しをした。
 新しい住まいは、周囲の環境も良く、家賃も手頃で私にとってはこれ以上ないくらい良い部屋だった。

 仕事は残念ながらまだ見つかって無いけれど、バイトを始めたからゆっくり探せる為焦りは無い。
 何もかもが上手く行っていて、自分でも怖いくらいだった。

「沙雪、こっちだよ」

 店に入ると直ぐにミドリに声をかけられた。

「お待たせ」

 上着を脱ぎながら、急いで席につく。
 待ち合わせ時間に遅れそうで、駅から早歩きで来たせいか少し汗をかいていた。

「もうすっかり暖かくなって来たね、暑いくらい」
「そうだね、上着は要らなくなってきたな」

 運ばれて来たアイスティーを飲むと、やっと一息つく事が出来た。

「面接は上手くいった?」
「頑張ったけど、厳しいかもしれない。周りの人はみんな優秀そうに見えたし」
「その割には落ち込んでないみたいだね」
「うん、簡単にはいかないって分かってるし、まあ焦らないで探すよ」

 笑顔で言うと、ミドリは優しい顔をして頷いた。

「今日は、兄のその後を報告しようと思って来て貰ったんだ、雪香についても……沙雪が嫌なら止めておくけど」

 ミドリにも雪香と決別した事を話したから、気を使ってくれているようだった。
 蓮もあの日以来、雪香の話を一切しなくなった。
 隣に住んでいるんだし、会う事だって有るはずなのに、決して雪香の名前は口にしない。

 逆に不自然に思えるけれど、蓮なりの気遣いなんだろうと思った。

「聞かせて、離れていても雪香を忘れた訳じゃ無いし、気にはなってるの」
「兄は秋穂と正式に離婚になったよ。子供も秋穂と一緒に実家に行った」
「そう……お兄さんは大丈夫? こんな時に離婚になって」
「離婚自体は元々兄も望んでいたから、特に動揺はしていなかった」

 お兄さんが過度のショックを受けて無いのは良かったけど、あっさりとした夫婦の別れに少し寂しい気持ちになる。

「兄が気にしていたのは子供たちだ。秋穂が今後の交流を拒んでいて、子供との面会も許さないと言ってる」
「そう……」