「沙雪を迎えに来たんだけど、見て分かるだろ?」

 ミドリは、手にした鞄を蓮に見せながら言う。

「は? 何でお前が?!」

 蓮はミドリに続いて私に視線を移した……異常に機嫌が悪い。
 怯む私に、蓮は責めるように言う。

「お前も何で、ついて行こうとしてんだよ!」
「何でって……ミドリが送ると言ってくれて、私も助かるからお願いしたんだけど……なんで怒ってるの?」

 突然やって来て、一人で怒っていて……また何か勘違いしてるのだろうか。
 思い込みが激しいのは、もう治らないんじゃないのかな……。

「蓮はお見舞いに来てくれたの? 今日退院だって言わなかったっけ?」

 様子を見にきたら、退院しようとしてるから、不機嫌になっているとか? でも退院するって言ったはずなんだけどな。
 首を傾げる私を、蓮が睨んでくる。

「聞いたから来たに決まってんだろ?!」
「え……でも来るなんて言って無かったよね?」

 退院日が決まったと話した時、特に何の反応も無かったはず。だから来てくれるなんて思っていなかったのに。

「は? なんだよそれ?」

 蓮は信じられないといった様子で、私をじっと見つめて来た。
 さっきから訳が分からない。

「お前さ……この前言ったよな? 別れたく無いって、側に居て欲しいって」
「え? 言ったけど……」

 確かに自分で言った台詞だけど、改めて言われるとなんだか恥ずかしい。
ミドリも驚いたような目を向けて来ている。

「あれはどういう意味だったんだよ? もう気が変わったのか?!」

 カッとしたように言う蓮に、私は眉をひそめた。

「変わってなんてないけど……これからも友達で居て欲しいと思ってるよ?」

 そう答えると、蓮は一瞬で顔を強張らせた。
 ……何この反応。

 怪訝に思いながら、蓮を見ている内に、不意に気付いた。

『別れたく無い、離れたく無い、側に居て』

 この台詞……良く考えてみれば告白したも同然な気がする。
 もしかして、蓮もそう受け取ったのかも。
 でも、あの後何回か顔を合わせたけど、全くそんな話はしなかったし、蓮もいつも通りだったはず。

 でも、これははっきりと確認しておいた方がいい。

「蓮、あの……この前言ったことだけど……」

 気まずさを感じながらおずおずと話しかけると、蓮は最高に不機嫌そうな顔で答えた。

「何だよ?!」

 ……怖すぎる。