全く話を聞かない蓮に、私も冷静さを失っていく。
 気がつけば大声で叫んでいた。

「離れたくないよ! 本当は別れたくない……側に居て欲しい……」

 夢中で叫ぶと、蓮はハッとしたような顔になる。私は息が切れて、涙が出て来て止まらなくなった。

「お、おい、落ち着けよ、大丈夫か?!」

 蓮は慌てて近寄りながら言う。

「蓮が話を全然聞かないからでしょ? さっき思い込みが激しいのを反省するって言ってたのに……」

 蓮のせいで、感情が高ぶって涙が止まらない。

「……悪い、俺が悪かった」

 蓮は動揺しながらも、私の背中をさすって来た。
 必死に謝る蓮に答えられなかったけど、心の中は嬉しさと、安堵の思いでいっぱいだった。
 一人じゃないのが……蓮が雪香よりも私を選んでくれたことが嬉しくて仕方なかった。
 なかなか泣き止めないでいると、騒ぎに気付いたのか看護師さんがやって来て、「病人を興奮させるな」と蓮を病室から追い出してしまった。

 ふてくされた蓮が出て行く後ろ姿を私は申し訳なく思いながらも、満たされた気持ちで見送った。


 それから二日後、退院の日になった。

「沙雪、荷物はこれだけ?」

 鞄を持ってくれるミドリに、私は微笑みながら頷いた。

「うん……ミドリありがとうね、迎えに来てくれて」

 もう大分回復しているので体は問題無いけれど、あのアパートに一人で戻るのは正直言って怖い。
 車で迎えに来てくれたミドリに、感謝でいっぱいになる。

「気にしないで、一人じゃいろいろ大変だろ?」

 私に家族や親しい友人がいないと分かってるからか、ミドリは細かな点まで気を配って世話してくれる。
 こんなに良くして貰って良いのか戸惑いながらも、好意に甘えることにした。
 強がるより、感謝して後で恩返しした方がきっといい。

「沙雪、早くアパートを移りたいだろ? 友人に不動産屋が居るから紹介するよ」
「え? いいの?」
「もうある程度候補を探してくれるように頼んでるんだ、明日にでも……」

 ミドリの説明を聞いていると、それを遮るように、病室のドアが勢いよく開いた。

「あれ……蓮?」

 ミドリと一緒に振り返ると、入り口には不機嫌そうに顔を強張らせた蓮が立っていた。

「……やっぱり来たか」

 ミドリがボソッと呟く。同時に蓮がズカズカと近づいて来て、苛立ったような声を上げた。

「なんでお前が居るんだよ?」

 ミドリは全く動じず、涼しい顔で答えた。