雪香なんて消えていなくなって欲しいと思ってた私なのに、今本当の別れを迎えて、雪香の幸せを祈る気持ちも持っている。
 そんな風に思える事が、嬉しかった。
 私もこれから頑張っていこう。
 今零れている涙が止まったら……もっと素直になって、幸せになるよう努力したい。


 どれくらいの時間が経ったのか。
 雪香と蓮が出て行った時のままの状態でぼんやりとしていた私は、病室のドアの開く音に気付き顔を上げた。
 静かに開いたドアから、蓮がゆっくりと入って来た。

「……蓮? どうしたの?」

 忘れ物でもしたのだろうか。まさか蓮が戻って来るとは思わなかったから、涙も拭いていなかった。
 きっと酷い顔をしている……慌てて手で頬を拭っていると、蓮は気まずそうな表情をした。

「雪香も一緒?」

 問いかけながらドアの方に目を遣ったけれど、病室のドアは閉じていて、雪香が入って来る気配は無い。

「雪香は帰った。駅まで送って俺だけ戻って来た」

 蓮は少し機嫌悪そうに言う。

「どうして?」

 雪香を一人で帰してまで、私に何の用があるのだろう。
 怪訝な思いの私に、蓮は真剣な目を向けて来た。

「どうしてって、戻りたいと思ったからに決まってるだろ?!」

 なぜか怒ったように蓮は言う。

「戻りたいって……何か話でも有るの?」
「用が無かったら、来ちゃいけないのかよ?」
「え……いけなくないけど、雪香を一人にしてまで来るなんて」

 雪香に対して、過保護な蓮の行動とは思えない。
 不審に思っていると、蓮はイライラとしたような声を荒げた。

「お前、本当に鈍いな! 雪香を放ってでも来たかったから来たに決まってるだろ! なんか不満があんのかよ?!」

 どうして私が怒られなくちゃいけないのか。
 納得がいかなかったけれど、蓮の言った言葉の意味の方が気になった。
 雪香と居るより私の所に来るのを選ぶなんて、一体どうして……。
 何を言われるのか不安になったけれど、すぐに蓮の用件を察して胸が苦しくなった。

「聞いていたかもしれないけど、私雪香と別れたの……蓮は私と雪香の和解を望んでいたけど、それは出来ない。これは怒りにまかせて自棄になって決めたんじゃないの」
「……ああ、聞こえてた」

 伏し目になりながら答える蓮に、私は言葉を続ける。

「蓮は私達の仲を取り持とうと考えているのかもしれないけど、この気持ちは何を言われても変わらないから」