変わりたい。もう自分の殻に閉じこもって、一人でいたくなかった。
 でも雪香が側に居たら、いつまでも過去を思い出してこだわってしまい前に進めない。

「もう……二度と会えないの?」

 雪香が声を震わせ言う。

「それは分からない。沢山の時間が過ぎたら気持ちが変わるかもしれないし、でも今は雪香から離れたい」

 私の決意が変わらないと理解したのか、雪香は静かに涙を流す。
 儚いその姿に、胸が痛くなった。それでも気持ちは変わらないけれど。

「雪香、泣かないで……私と別れても大丈夫だから。雪香には何より大切な彼を支えるって役目が有るでしょ? それにお母さんも蓮も力になってくれるから、大丈夫だよ」

 小さな子を宥めるように言うと、雪香は涙に濡れた瞳で私を見た。

「……沙雪は? これからどうするの?」

 私はゆっくりと視線を落とした。

「私は新しいアパートに移る。それから仕事を探して生活していくよ」
「でも、そしたら沙雪は一人になっちゃうんじゃ……」

 雪香は不安そうに顔を曇らせる。

「初めは一人だけど、でも私も探したいと思ってる。雪香みたいに強く思える相手を……側に居てくれる人を」

 昔みたいに心を開いて、人を好きになりたいと願っている。

「沙雪……私が全部悪かったのに……また沙雪を一人にしちゃうなんて……結局最後迄沙雪みたいに強くなれなかった」

 止まらない涙を流す雪香を見ていると、私も込み上げるものを堪えるのに苦労した。

「私はそんなに強く無いよ」

 本当は寂しくて仕方ない。
 雪香と離れることで失うものは、とても大きいから。

「雪香は……何があっても彼と生きていくんでしょ? だったら強くなるしかない。何もかも捨てる覚悟で消えた日を思い出して……泣いてる場合じゃないでしょ?」

 強い口調で言うと、雪香はハッとしたような表情になり頷いた。

「私彼と生きていく。あの日、誰もいない教会で二人で誓ったんだもの、誰も祝福してくれなくても二人で幸せになろうって……」

 沢山の人を傷付けた雪香達を、私は素直に祝福出来ない。
 でも雪香にとっては本当の、かけがえのない想いだった。
 
 あの時……雪香が私に電話をして来た時に聞いた鐘の音は、弱々しい雪香の声を消し去ってしまい、私に大きな不安を与えた。
 でも雪香達にとっては、二人を唯一祝福してくれるものだったのだろう。