海藤が私のところに来たのは知っているようで、雪香は気まずそうに答えた。

「どうしてそんなに後回しにしたの? だいたい勝手な事して欲しくなかった。雪香に悪気が無かったのは分かるけど、私は海藤にも三神さんにも脅されて、酷い目にあったんだから!」
「……ごめんなさい」
「謝られても、許せない。雪香の考え方や気持ちは殆ど共感出来ないし」

 本音を言うと、雪香は悲しそうに俯いた。

「自分でも最低だって思ってる。でもどうしても謝りたかった。結婚式の日に沙雪に電話したでしょ? 何もかも捨てて徹のところに行ったけど、沙雪だけが心残りだったの、だから謝りたかった……伝わらないとは思ったけど」
「……本当に……何もかも意味が分からなかったよ」

 雪香が消えてから今までの出来事が、鮮明に脳裏に浮かんだ。
 何が起きているか、まるで分からずに不安な日々を過ごして……それらは、全て雪香の気まぐれと自己満足の結果だった。

 虚しいような悲しいような感覚に陥り、私はギュッと目を閉じた。
 落ち着かないと、雪香を更に責めてしまいそうだった。

 しばらくの間沈黙が続いた。雪香の緊張が私に迄伝わって来る。そんな中、私から口を開いた。

「雪香……私にごめんなさいって電話して来た時どこに居たの?」
「え?」

 雪香は質問の意図が分からないのか、戸惑いを見せた。

「あの時……雪香の話す声と一緒に鐘の音が聞こえて来たんだけど」
「あ……確かに教会の鐘が鳴ってた……あの後すぐに立ち去ってしまったけど」

 雪香は当時の状況を思い出したようだった。

「じゃあやっぱり教会に居たの?」

 雪香は静かに頷いた。

「さっき教会から逃げ出したって言ったけど、正確には少し違うの。着替えをして控え室から出た後教会の中に隠れてたの。周りは人が沢山で逃げ出せそうに無かったから……隠れて徹にメールしたの。結婚式から逃げ出したって、一緒に逃げるから迎えに来て欲しいって」
「それで……彼は迎えに来たの?」
「すごく怒ってたけど……人気が無くなってから来てくれた。あの時彼は最後に私を見ようとして、近く迄来ていたの」
「じゃあ……私に電話したのは彼と会った後?」
「あの教会で徹と誓ったの、ずっと一緒にいようって。もちろん中には入れなかったけど……その後沙雪に電話したの」
「私はあの時、雪香がまだ教会に居るんだと思って必死に駆け戻ったんだよ」