直樹は雪香さえ無事なら私の安否なんてどうでもいいのだから。
 心の中で決断していると、直樹が気をとりなおしたように落ち着いた口調で言った。

「意見の違いはあるが、今はとにかく雪香を捜すのが優先だ。けどもう手がかりはない……沙雪は双子の姉だろう? もっと情報を持っていると思ったのに、どうして何も知らないんだよ」
 
 冷静さを装っても、情けなさは変わらないままのようだ。

「……これ以上話していても進展は無さそうだし、帰るわ」

 席を立とうとする私を、直樹が慌てて引き留める。

「沙雪? 待てよ!」
「何?」
「どうしたんだ? 突然帰るだなんて」

 戸惑う直樹を、私は細めた目で見返した。

「時間の無駄だから。現実を直視せずに人任せな直樹と話していても、雪香は見つからないもの」

 冷たく言い放つと、直樹の顔が強張った。

「……悪かった……でも少しは理解してくれ。結婚式当日に花嫁が消えたんだ、周りには逃げられたと思われている……有り得ない屈辱だよ。現実逃避したくもなるだろ?」

 打ちひしがれる直樹を、しばらくの間見下ろしていた私は、小さな溜め息を吐いた後、再び椅子に座った。
 同情する気にはなれないけれど、直樹の気持ちはよく分かる。
 誰よりも信用していた相手が突然去っていった時の衝撃は、私も半年前に味わったばかりだから。
 私がそうだったように、直樹も今、精神状態がおかしいのかもしれない。

「直樹……確かに雪香はみんなに愛されていたけど、だからこそ誰かに妬まれていても不思議じゃないと思うの。逆恨みって有るでしょう?」

 私の言葉に、直樹はハッとしたような表情になり、大きく頷いた。

「ああ、それなら有り得るな」

 良かった。上手く直樹の気持ちを誘導出来たみたいだ。

「直樹は雪香の友達と面識があるでしょ? 連絡とって聞いてみて欲しいの。雪香が何かトラブルに関わってなかったか、様子がおかしくなかったかって」
「雪香の友人とは何度か会ったことが有るから聞いてみる。何か分かったら沙雪にも知らせる」

 はっきりとした口調で答える直樹の様子に、私はホッとして肩の力を抜いた。

「良かった、私は雪香の知り合いって言ったら、鷺森蓮しか知らないから」
「え……鷺森蓮って誰だ?」

 直樹は不満そうに眉をひそめた。

「……雪香の知り合いだけど、直樹だって名前くらいは聞いていない? 昨日の式にも来てたんだし」