「あの時は本気で思ったの。でも実際は沙雪と更に距離が出来てしまった。沙雪はいつの間にか引っ越ししていて、連絡すらくれなくなったでしょ? どうすればいいのか分からなくなって……その頃に三神さんと出会ったの」

 ようやく今回の気に繋がったと、私は居住まいをただした。

「その話は聞いた。三神さんも騙したんだってね」
「うん。彼は私を沙雪だと勘違いして文句を言って来た。驚いたけど私がなんとかしようとしたの」
「どうして、そんなことを?」
「初めはただの思いつきだった。三神さんの件を解決したら沙雪に感謝されると思ったし、仲直りのきっかけになると思った」
「仲直りって……雪香の中では喧嘩になってたんだ」

 そんな軽いものでは、決してないのに。

「沙雪が直樹のことで深く傷付いたとは思ってなかったけど、私に対して怒っているのは感じてたの。初めは、名前を使っていたのがばれたのかと思ってビクビクしてたけど、違うみたいだし……沙雪と縁が切れてしまうのは嫌で不安になったの」

 なぜ私と縁が切れると不安になるのだろう。元々、十年も会ってなかった絆の薄い私達なのに。

「それで、雪香は具体的には何をしたの?」
「それは……初めは適当に話を聞いて宥めれば大丈夫だと思ってたの。私、いろんな人と付き合って経験を積んだつもりになってたからなんとかなると思った」
「適当にって、雪香考えが無さ過ぎるよ」

 呆れて呟くと、雪香は顔を歪め頷いた。

「沙雪の言うとおり、三神さんは普通じゃなかった。私の話なんて聞かないし、しつこく付きまとわれるようになって怖くなった……見た目は本当に普通だったから彼の異常性に気付かなかったの」
「それは、分るけど」

 私も三神さんの見かけに騙されたから、その点は雪香を非難出来ない。

「危険に気付いてすぐに、私は沙雪じゃないことを彼に伝えたの。それで退いてくれると思ったんだけど、実際は三神さんを余計に怒らせてしまった」
「当然でしょ。散々騙したあとに本当は別人でしたって言うなんて……余計にこじれるって本当に分からなかったの?」

 前から思っていたけれど、雪香は人の気持ちを考えたりしないのだろうか。
 今だって自分が怖くなったから私を庇うのを止めたと悪気無く口にした。

「その時は分からなかった。でも三神さんをなんとかしないとって焦ったの」
「……そう」

 雪香は想像力が足りないのかもしれない。