雪香は口ごもる。

「気を遣わないでいいから、はっきり言って」
「……今度結婚するって言い出したの。沙雪のこと」
「どうせ、悪く言ってたんでしょ? ここまで来たら隠さないで」
「うん……真面目でつまらない相手だけど、お金がかからなそうだし従順だから結婚するにはいいって。結婚後も上手く遊ぶつもりだって」

 私は深い溜息を吐いた。直樹の不誠実さには気付いていたから今更傷つきはしないけど、自分の見る目の無さが嫌になる。それでも気を取り直しては雪香に問いかけた。

「肝心の雪香が直樹とつきあった理由は?」
「はじめは沙雪と別れて貰おうとして近づいたの。直樹なんかと結婚したら沙雪が不幸になるだろうから、引き離そうとした。でも予想より直樹が本気になってしまって、プロポーズされた」

 予想もしていなかった雪香の言い分に、私は大きく目を見開いた。

「なんでそんなこと? 私が直樹に騙されていたとしても、雪香には関係ないじゃない」
「関係なくないよ。沙雪が不幸な結婚したら私も悲しいし」
「嘘! 本当に私の為を思ってるなら偽名なんて使わなかったでしょ? 誤魔化さないで」

 矛盾点をつくと雪香は言葉に詰まった。

「……本当は、沙雪に感謝されたかったから。私たちずっと離れていたし、再会したあとも沙雪は私を避けているみたいだったから。良いことをすれば、喜んでくれて昔みたいに仲良くなれると思ったの」
「良いことって、直樹を取るのが?」
「だって直樹とは別れた方がいいから。私はもう自棄になっていて好きな人と結婚出来ないと思い込んでたの。そんなとき直樹にプロポーズされて……結婚すれば家を出られるし、沙雪には感謝されるし丁度よいと思った」

 私は唖然としてしまった。

「本気でそう思ったの? 感謝なんてする訳ないじゃない。だって私はその時直樹の酷さを知らなくて、ただ直樹と雪香に裏切られたのだと思ったんだから。雪香に対する感情は憎しみだけだった」

 もし本当に私の為を思うのなら、回りくどいことはせずに、はっきりと直樹の悪行を教えてくれたら良かったのだ。そうすれば……恋人の本性を知り傷つくだろうけど、ここまでこじれなかったのに。