確かにその通りだった。あの時助けがなかったら今ごろもっと酷い怪我をしていたかもしれない。
 でも……躊躇いながらってのは絶対に嘘だと思った。

 蓮とミドリはそのまま言い争いになってしまい、私はそんな二人を半ば呆れて眺めていた。
元々仲の悪かった二人だけど、ミドリの発言では一緒に行動していたようだったのに……。

「だいたいなんでお前が仕切ってるんだよ!!」
「鷺森に計画性の欠片も無いからだろ?!」

 ずっとこんな調子だったのだろうか。
 止める気力も無く、壁にもたれて座っていると、視界の端で何かが動いた。

 目を向けると、窓際に逃げていた三神さんが、側に有る窓枠を支えにして立ち上がるところだった。
 蓮に殴られたところが痛むのか、とても苦しそうだ。

 彼は完全に立ち上がると、私に視線を向けて来た。強い憎悪の籠もった目と視線が重なり、背筋がゾクッと冷たくなった。
 危機感を覚え私も立ち上がり身構える。

「沙雪?」

 ミドリが異変に気付き、蓮と言い合うのを止めて声をかけて来た。

「どうしたんだ?」

 蓮も怪訝な顔で、私の視線を追って振り返る。

「お前……」

 ただならぬ雰囲気の三神さんに気付くと、険しい表情になり一歩前に踏み出した。
 けれど、三神さんは蓮の存在は目に入って無いかのように、私の事だけを見据えている。

「体中痛い……こうなったのも何もかも全てお前のせいだ」

 彼は血の滲んだ口を歪め、私に近寄って来た
三神さんは何もかも……蓮に殴られた痛みすら、私のせいだと信じているのだ。全ての憎しみを私にぶつけようとしている。

 どうしてここまで……精神がおかしいとしか思えない。

「許さない!」

 怒号が響く。三神さんの狂気が怖い。
 そのとき蓮が三神さんを上回る気迫で叫んだ。

「いい加減にしろよ! お前のことは調べたんだよ! 沙雪に妙な逆恨みしやがって……女を守れなかったのは自分に根性が無かっただけだろ?! そんなに大事だったら乗り込んで助けりゃ良かったんだよ! DV男にビビって何も出来なかったのを沙雪のせいにするな!!」

 私は驚愕して蓮を見た。こんなに詳細に知ってるなんて……いつの間に、どうやって調べたと言うのだろう。

「……あんたには関係ない、そこ退けよ!」

 三神さんは惨めな位、動揺している。言葉は強気だけど、そのおどおどとした態度で蓮を恐れている様子が見て取れた。

「沙雪大丈夫?」