暗い表情で話す直樹の言葉を、最後まで聞かずに遮った。

「え?」
「雪香を恨んでいそうな人に、心当たりは無いのかと聞いたの」
「恨んでるって……どういう意味だよ?」
「昨日直樹も言ってたでしょ? 雪香は事件に巻き込まれたのかもしれないって。私もその可能性が有ると思う。雪香の人間関係はどうだったの? トラブルとかなかったの?」

 直樹は私の質問の意図をようやく理解したようで、大きく頷いた。

「俺が言った“事件”って言うのは、何かに巻き込まれたんじゃないかってことだ。だってそうだろ? あの雪香が誰かに恨まれてるなんて考えられない」

 彼の言葉に、私は失望し大きな溜め息を吐いた。

「雪香は教会の控え室に居たのよ。 教会には大勢の招待客がいたし、中への出入りは制限されていたんだから、知らない人が入ってきて雪香を連れて行ける訳がないでしょう?」
「それはそうだけど……」

 直樹は困惑したように、視線を彷徨わせる。

「結婚式当日に居なくなるなんて異常よ。誰かに脅されて逃げていたとか、考えられない?」
「まさか……脅されだなんて、話が飛躍し過ぎている」
「あの……本当に雪香を探す気あるの?」

 私はうんざりと吐き捨てた。

「有るに決まってるだろ! なんでそんな言い方をするんだ?」

 侮辱されたと感じたのか、直樹は顔を赤くして声を荒げる。

「だって直樹は現実を見てないように見える。雪香はトラブルを抱えていたんじゃないかと考えるのが自然なのに、否定的な発言ばかりするじゃない」
「それは……」
「それは何?」
「雪香は明るくて、優しくて、いつも人の中心にいた。それが俺の知ってる雪香だ。誰かに恨まれているなんて俺の知っている雪香じゃない。事実だとしても知りたく無いんだ」

 直樹の言葉を、私は冷めた気持ちで聞いていた。焦っている割に必死に頭を使い考えているように見えかったのは、真実を知って自分が傷つくのを恐れていただけか。
 どっと疲れが襲って来て、私は溜息を吐いた。

 雪香からの不審な電話、歩道橋での出来事。それらを直樹に話すかどうかを決めかねていたけれど、今、伝えないと決心した。
 直樹を信用出来ない。
 雪香を見つけ出し、何が有ったのか聞き出す目的が、直樹と一緒では果たせそうにない。
 危険があると知ったら、彼は何も解決しないまま雪香をどこかに隠してしまいそうだ。