本当に蓮の行動は、信じられない。
 こんな無理やり突入して来て、もし私が居なかったらどうするつもりだったのだろう。

 でも今はそんな滅茶苦茶な蓮が、何より心強く感じた。
 恐怖から解放され、自然と涙が溢れるのを止められなかった。

「沙雪!」

 蓮は叫ぶように言い、私に駆け寄って来た。
 目の前迄来ると片膝をついて座り、私の口を覆っているタオルを外してくれた。

「……蓮」
「殴られたのか?!」

 蓮は私の顔を見ると、荒々しい声を出した。

「おい! 余計なことをするな!」

 私が答えるよりも先に、追いかけて来た三神さんが蓮に掴みかかった。

「ふざけんな! お前、こんな真似してただで済むと思うなよ!!」

 蓮が勢いよく立ち上がり、三神さんの腕を払いのける。その迫力に、三神さんは顔色を変えよろめいた。
 私と対峙していた時とは別人にしか見えない。

「跡が付くほど殴りやがって、倍にして返してやるよ!」

 蓮は頭に血が上っている様で、今にも三神さんに襲いかかりそうだった。
 助けに来てくれたことの感動に浸っている暇も無い。

「蓮! 落ち着いて!」

 とにかく、止めなくてはと思い必死に声をかけたけれど、蓮の耳には届かない。
 ついには三神さんに殴りかかってしまった。

 激しい音を立てて、三神さんが壁に叩きつけられる。
 それでも蓮は止まらずに、三神さんのシャツの襟を掴み立ち上がらせようとした。
 このままじゃ、蓮の方が傷害で逮捕されてしまいそう。

 なんとか止めたいのに、蓮は足の拘束を解いてはくれなかったから、身動き出来ない。

「蓮、止めて!」

 私が叫んだのと同時に、再び玄関が大きな音を立てて開いた。
 今度は誰?
 蓮も三神さんも、全く気付かないで争っている。私だけが振り向き、開けられたままの居間のドアの向こうに目を向けた。

「え?……ミドリ?」
「沙雪?!」

 ミドリは私に気付くと、顔色を変え叫んだ。

「ミドリ、蓮が!」

 一瞬で状況を察したミドリはすぐに部屋に踏み込んで来た。

「おい、落ち着け!」

 そして怒鳴りながら、苦労して蓮を押さえ込み、なんとか三神さんから引き剥がした。

「邪魔すんな!」

 ミドリに押さえつけられた蓮が、苛立ったように叫んだ。

「いい加減にしろ! 今はこんなことをしてる場合じゃない!」

 ミドリも負けない位の大声で叫び、蓮を壁に叩きつける。